クレアのマラソン随伴

とあるゲームのガチャの引き直しの際に、ガイド役のクレアが言うセリフで、書いてはみたものの、仕様そのものがなくなりました。長めに書いてくださいという依頼で書いたのですが、読み返してみると長めなんてものではありませんね。あまりにも長いテキストを書いてしまったので仕様もろとも巻き込んでリジェクトせしめたのかもしれません。
ちなみにMediumからの再録です。コンテンツが少なくて寂しかったので持ってきてしまいました。

えぇ――――――――――――――――っ!?
なんでダメなの―――――――――――っ!?
せっかくいい防具でたのになんでなんでなんで!
お兄ちゃん、そーゆー小さい人間だったんだ!?
世の中にはこんな防具さえ手に入らない
可愛そうな人だっていっぱいいるのよ!?
そんなことだからご近所さんから
「村長さんのお孫さんはいいですね~」
「おほほほほ~」なんてことを言われるのよ!?
お兄ちゃんそーゆーの気にしてないけど
あたし、なんか、すごいムカつくの!
おほほにじゃないよ! お兄ちゃんにだよ!
まあ、そのおほほほほ~のバ……
お、おばさんも!
村が破壊された時に行方知れず。
心の中には胸をなでおろしてるあたしがいて
これじゃあお兄ちゃんのこと言えないな~
あたしもまだだ小さい小さい。
なんてことを思わなくもなかったけど
あたしはちゃんとそういうのを乗り越えたの!
だからあたしだったら、そんな贅沢は言わない。
言わないというか、言えない。
言っちゃいけないって言うか
人間として間違ってる。
でもね。
理屈とかルールとかがすべてだとも思わないの。
だって、そんな世界イヤでしょう?
だから今回だけは特別!
特別にもう1回、ガチャ引かせてあげる!
キャッ! 言っちゃった!
引かせてあ・げ・る!
一生で何度も言うセリフじゃないわよこれ!?

     *     

またなの!?
またやりなおすの!?
お兄ちゃん、自分を信じるとかってないの?
今はダメだけど、これから挽回しようとかさぁ。
そうやってガチャを繰り返すのが、前向きな努力
だったらかまわないの、私としては。
でもどうせ、最初に差をつけとけばあとは楽して
鼻ほじりながらできるしーとか思ってるでしょ?
なんかもう、さすが長男って言うの?
育て方間違ったんだと思う。
長男って色々とたいへんよねー、とか、ご両親の
老後の面倒見るのよねー、とか言われるけど、
私の知ってる長男って自称ミュージシャンとか、
自称イラストレーターばっかだもん。
もちろん、私のお兄ちゃんはそうじゃないわ。
ちゃんと働くし、向上心もあると信じてる。
ガチャとかそーゆー偶然手に入れるものに頼らな
くったってやっていけるはずだって。
だいたいお兄ちゃん、村長の椅子を手にしたのも
たまたまこの家に生まれたからでしょ?
それって、すんごい恵まれてるってことだから
あとは真面目に生きようって思わない?
言っちゃ悪いけど、私が姉だったらもっとしっか
りしてると思うの。
さっき出た防具で、ぜんぜん行けたと思うし、
より好みなんかしなくったって、実力あるし
ガチャ繰り返すくらいなら、村の外に出て、ペチ
ペチ戦って、レベル4つくらい上げてたと思う。
お兄ちゃんは、夢を見てるの。
ガチャが自分を変えてくれるって。
でも自分を変えられるのは、自分だけ。私が今ま
で頑張ってこれたのも、そう信じてたから。
だから、約束してくれるんだったらいいよ。
好きな防具が出るまで、何度でも。
ガチャをがんばった以上に、そのあとの冒険も
がんばるって。
ね? 約束して?
だって私……
がんばってるお兄ちゃんが好きだから!

     *     

またやりなおしですかー。
そう来ると思ってましたー。
なんていうかこう、はたから見ても微妙だったと
言うか、前回のあれのあとの今回のこれ……。
私としてもなかなか「これで行こう!」とは言い
出せずに……
ああー、これは来るなー
引き直したいだろうなーっての、感じてました。
でも思うんだけど、所詮は最初のガチャだよ?
タダでできるものなんだよ?
お兄ちゃん、こんな言葉聞いたことある?
「コーボー、服を選ばず」
昔々、とある村をドラゴンが襲ったの。
しかも、お城よりもでっかい凄い凶悪なヤツね!
村人は酒場にいた冒険者達に討伐を依頼するけど
みんな怖気づいて話もろくに聞いてくれなくって
酒場の主人がもう、切れる切れる!
「お前たちは冒険者のくせになんだ!
モンスターの一匹も倒せんのか!?
ゴテゴテとしたその鎧は飾りかっ!?」
って、まわりはもう、うわー、おっちゃんなんか
ゆーてるけどどーするー? みたいな感じ。
「いや、ドラゴン、普通にでかいやん」
「俺たち倒せんの、熊とかせいぜいゾウくらい?
大きさで言うたら小屋くらいが限度やろ?」
「城サイズとか、防具じゃ防ぎようないわー」
ってごにょごにょ言ってるとぉ……
そこに現れたのが、勇者コーボー!
19歳で出家して5年間の山ごもりで身につけた
スーパーパワーの持ち主!
世界各地をめぐり、素手で岩盤割き割り、温泉を
湧かせてまわる旅の途中で偶然立ち寄ったの。
「ドラゴンの出現に難儀しておると聞いた。
ならば拙僧にまかせるが良い」とコーボー。
まわりの冒険者が呆れながら見守る中で、酒場の
主人だけはウッキウキで聞いたの。
「防具は何になさいますか?
なんならガチャも回しください。
いえいえこの機会です、最高の防具が出るまで
何度でもやり直されると良いでしょう」
なんかもう、お兄ちゃんだったらおサルみたいに
ガチャ回しちゃうチャーンス! なんだけど……
コーボーは「いいや、防具はなんでも結構」って
そのへんにあったシャツを着て飛び出したの!
キャーカッコイイ!!
コーボーが猛り狂うドラゴンに殴りかかると!
ドラゴンの1兆度の火の玉がぶわーっ!!
でもコーボーは平然!! なんでだと思う!?
よく、雨の日に濡れない方法とか言って、雨粒を
ぜんぶ避ければいいって言うでしょ?
あの要領で、原子と原子の隙間を縫って避けるん
ですって!! すごくない!?
あ、原子ってなんだかよくわかんないけど、なん
か、そういうのでできてるらしいよ、世界って。
で、あわれなドラゴンはコーボーの一撃を喰って
頭から温泉を噴き出して死んでいったんだとさ。
で、それ以来、「コーボー、服を選ばず」って
言われるようになったのよ。
まぁ、お兄ちゃんみたいな凡人には、防具は必須
なんだけど、最後に決め手になるのは自分の力。
それがわかってるんだったら、いいわよ。
ガチャ引いて。

     *     

あーもうダメ。
私の話何も聞いてなかったでしょう?
なんか、心構えができてない。
ガチャの。
お兄ちゃんのこと責めてるんじゃないのよ?
ちゃんとできると信じてるから言ってるの。
なのにお兄ちゃん、右の耳で聞いたことが、左の
耳からそのまんま抜けちゃうんだから。
今度から私の話聞く時は、左の耳指で塞いでから
聞いてくれる?
はい、やってみて。
そうそう、それで改めて言うけどー
私はお兄ちゃんにしっかりした大人になって欲し
いから言ってるのよ?
気に入らないことがあったら何度で……
って、なにニヤニヤしてるのよう!
左耳を塞いでも鼻から抜けてる!!
そんなことだからダメなのよ、んもう!
今度から私の話聞く時は、左の耳指で塞いで、右
手で鼻の穴も両方とも塞いでから聞いて!
はいやってみて!
できた!?
嫌なことがあってもね、すぐに投げ出さないで。
ってそれだけなの。私が言いたいことは。
ガチャくらいはまぁ引かせてあげるけどぉ
人生そんなもんだなんて思って欲しくないの。
お兄ちゃんはお兄ちゃんの人生の一瞬一瞬を大切
にして生きて欲しいの。
はい聞いてない!
繰り返します!
お兄ちゃんはーーーーーー!!
お兄ちゃんの人生のーーーーーー!!
一瞬一瞬をーーーーーー!!
…………………………………………
大切に生きて。
クレアからのお願い。
はい、というわけで、集中して!
リピート・アフター・ミー!
このガチャは絶対無二のひと振りなり!
行ってみよう!

     *     

お兄ちゃん、なんか辛いことでもあった?
なんかお兄ちゃん、ガチャに逃げてる気がする。
ガチャ回して気がまぎれるんだったら、
回せばいいと思うけど、それって違うと思うの。
お兄ちゃんは、向かい合うべきものから逃げてる
だけなのよ、きっと。
わからなくはないよ?
私だって辛い時はあるし。
一日中マリモにお話聞いてもらったりとかさ。
そういうの全然ふつうにあるじゃない?
だからなんか、お兄ちゃんにとってのガチャって
私のマリモなんだろうなぁと思うこともあるの。
でもさ、だったら逆に聞きたいのよ。
ガチャは何か答えてくれた?
ちなみにマリモは何も答えてくれない。
答えはいつも私が自分でみつけてる。
お兄ちゃんはどう?
ガチャが答えを見つけてくれたことってある?
もしガチャが答えてくれるんだったら、私だって
マリモなんかと話さないもの。
私も、毎日マリモをつつくようにガチャまわして
それで何もかも忘れてしまいたいわ。
お兄ちゃんがやってくれない村のお仕事とか、
お兄ちゃんのせいでうまく行かない恋の話とか、
そーゆーの全部忘れて、ガチャ回して一喜一憂で
きたらどんなに幸せだろう……!!
はぁ……。お兄ちゃん、妹のこんな言葉聞いても
「はやくガチャやらせろ」って感じだよね。
ごめんね、ミッシェル、ポーレット。
こんな人のガチャと一緒にしちゃって。
あ……ミッシェルとポーレットってのはマリモの
名前ね。つけてあげたの。
何よ! 名前つけたら悪い!?
愛着があるんだもの、名前くらいつけるわよ!
私は防具になーんも愛着もない、使い捨て……
んーん、使わずに捨てるお兄ちゃんとは違うの!
お兄ちゃん、今まで受け取られずに流されてった
防具のこととかなーんも考えてないでしょ?
えっ!? 今までに流されてった防具が寂しくて
可哀想だから、たくさん防具を流してる!?
そ、そうだったの!?
私、お兄ちゃんのこと誤解してたかも!!
そんなことならすぐにでもガチャ回してあげて!

     *     

お兄ちゃんって、ほんっと決断力無いよねぇ。
なんで「これで行く!」って言えないの?
買い物とか行っても、迷ったあげく何も買えずに
帰ってくるタイプでしょ?
はいはい、ごめんごめん。わかってますとも。
慎重なだけだって言いたいんでしょう?
石の橋を叩いて渡るような性格だ、って。
でもね、お兄ちゃんのはちょっと違うと思う。
最初は慎重に叩いてるのかもしれないけど、その
うち石橋を叩くのが目的になる感じ。
もうほんとよく、ボコボコ叩いてないでさっさと
渡れよ! って言いたくなるもん。
私、そーゆーのは指導者には向かないと思うの。
まがりなりにもお兄ちゃんは村長さんでしょ?
私が村長さんに大切だって思うのは、考えるより
前に決断すること!
理由はあとでこじつければいいの。
結果としてみんなが幸せになることが正解なの。
実際、私達の村って何度か侵略とか略奪とかされ
たけど、相手は全部そーゆータイプだったよね?
略奪してった人たちは、その後裕福に暮らしてて
この村は貧乏になってくばっかり。
それもこれもお兄ちゃんに決断力がないせいよ?
おじいちゃんだってそう。優しすぎるの。
私達の村が不作で、隣の村には食料があります。
どうしますか?
指をくわえて見てるだけ?
そんなことじゃ飢えて死んじゃうわよ!!
…………………………………………。
と、ここまで聞いてどう思った?
私が言ってること、おかしいって気づいた?
気づいてない? 私、ちゃんと見てるからね?
お兄ちゃんがどんなときバカ面して、どんなとき
キリッとしてるか。
でもとにかく、決断力の話だけは、ホントそう。
お兄ちゃんにはしっかり身につけてほしいの。
人は、正しいとか間違いとかじゃなくって
決断する人について行くのよ?
人は決断できない正義の人より、決断する悪に従
うものなの!
そうやって道を誤ってしまう人たちを救えるのは
私たちの断固たる態度なのよ!?
だからここで練習しましょう、決断の練習!
はい、静かに目を閉じてみて。
心の声に耳を澄ませて……。
次にどんな防具が来ても、運命が選んだ防具。
数字じゃない……レアかどうかも関係ない……。
運命の防具に出会うの!
その防具とともに歩む道は、もしかしたら厳しい
道になるかも知れないけど、それでもいい!
だってその防具はただの道具じゃない!
パートナーなんだもの!
お兄ちゃんと、その唯一無二のパートナーとで
新しい物語を切り開くの!
さぁ! 心の準備ができたら回してみて!
ガチャを!

     *     

またやり直しー?
さっきのも気に入らなかったの?
私なんか防具とか興味ないから、さっきのとその
前のと、どう違うかわかんないや。
洋服とかカバンとかだったら私も同じくらい悩む
かも知れないけど、防具って全部同じに見える。
あ、もちろん、布か鎧かくらいはわかるわよ?
バカにしないでね?
でも同じ布の防具で、これはどんな敵に対しては
どうとか言うのはさっぱりわかんない。
これは魔法使い向き、みたいなのあるんでしょ?
お兄ちゃんはわかるんでしょう?
この子は魔法使いと一緒に旅をしたがってる……。
魔法がこの子を活かしてくれる……って。
ねぇねぇお兄ちゃん、恋ってしたことある?
私、ガチャって何かに似てるって思ってたの。
で、それって恋なんじゃないかなって。
とっかえひっかえするって意味じゃなくて、なん
か、理屈じゃなくて心が決める、みたいなとこ。
いつの間にか好きになって、なんとなく相手がし
て欲しいことがわかるようになってきて……。
んーん、もちろん勘違いかも知れないの!
そんな気がするだけかも知れないの!
でも、それがわかった気になって、自分もせい
いっぱい応えてると、通じる気がするでしょ?
通じなかったら、それは残念でしたーってことに
なっちゃうんだけど、私は通じるって思う。
だからお兄ちゃんも……もしかしたら恋とかわか
んないかも知れないけど、同じだと思うの。
いろんな防具を見て、あれでもない、これでもな
いって頭で考えてるうちは決まんない気がする。
考えてもダメ。
選ぶべき人は、ハートが知ってるわ。
じゃぁ、もっかいガチャ回してみようか?
お兄ちゃんに良い出会いが訪れますように!

     *     

何? またダメ? 今度はなんでダメなの?
特に理由はない?
なんとなく繰り返すのがクセになってきた?
はぁ?
なんか妹があれこれうるさいんですけどー
みたいな顔なんですけどー?
お兄ちゃんには誠意が感じられない!
防具を見もしない時があった!
今までのやり直しのうちの何回かは、考えずに
ペッってやっちゃってたもん! 見てたもん!
ちゃんと吟味した!?
言いがかりはやめろですって!?
お兄ちゃんはちゃんと吟味したつもりかも知れな
いけど、はたで見てる限りはもうぜんぜん。
せめて「ふむふむこれは……」みたいなことは
言って欲しいの。
もちろんフィーリングで決めていいんだけどー。
でも、そこにいる人のことも考えようよ!
せめてこう、ガチャやったあとぉ、袖を通してク
ルッとまわって、どう? って聞いてほしいの!
お兄ちゃんにとって、この村での生活はゲームみ
たいなものかも知れないけど、私には違うの。
私の人生は、この村の中にあるし、リアルがここ
なの。だからそのことも考えて欲しい。
もしそんなこともわかってくれないんだったら
そんなわがままなお兄ちゃんいらない!
捨てたい!
装備はがして裏山に捨てたい!
頭にクギ刺して中の空気抜いて捨てたい!
厚紙に包んで棒でたたいて粉々にして捨てたい!
裸にしてゴロゴロ転がして部屋のゴミ吸着させて
燃えるゴミと一緒に捨てたい!
だからお兄ちゃん、ガチャで防具を手に入れたら
まずは1回その防具に袖を通して。
エア装備でいいの。
なんかこう、フィット感とか確かめて、それから
ふむふむこれは、って言います。
ほんでその後に、その防具の感想を言います。
それから次のガチャへ進みます。
と、こんな感じで! やってみよ?

     *     

お兄ちゃんのガチャには心がこもってないよね。
普通にガチャ回してるだけでしょ?
もっとなんか、パワーのかけ方があると思う。
私の友達がおみくじを引いた時の話したっけ?
その子は叶わぬ恋の真っ最中で、おみくじの結果
にすべてを賭けると誓って引いたんだけど……
左手の指2本を額に当てて、右手の拳を固く握り
上カルビ100人前!って叫びながら引いたの。
それはそれはものすごい気合で、おみくじの中の
人、ちゃんと避けてなかったら死んでたと思う。
私も傍で見てたけど、ぶわぁっって砂埃が舞い上
がって、一瞬、社が吹き飛んだって思ったもの。
でもね、結果は小吉。
「恋は実らず」だって。
で、その友達、なんて言ったと思う?
「今日は溜めが足りなかった」よ?
次の日、滝で身を清めて、白装束で、昨日と同じ
ポーズで2時間以上気を練りあげて再挑戦。
「再挑戦だから、次は命にかかわる」とかわけわ
かんないこと言って、遺書まで渡されたけど……
今ならその気持がわかる気がするの。
そこまでやらなきゃダメなのよ。
その日、天も何かを予感していたんだと思う。
朝から季節外れの大嵐。
その子が社へ近づくと猛烈な風が吹き荒び、大地
はビリビリと震え、獣たちは姿を消したわ。
社へ現れたのは人の顔をした鬼、いいや鬼の顔を
した人、天が定めた運命を破壊する決意の顔よ。
2時間後、その拳が空を切り裂くと、天を覆って
いた厚い雲は晴れ、眩い光が地を照らした。
それでようやく大吉ゲット。
そこまでして大吉をゲットしたのよ!?
あの子は、運命の歯車を破壊したの!
あとはもう、どんな奇跡でも起きるわ!
恋のライバルも、反対してたお相手のご両親も
踊りながら遠くへ旅立ってしまったの!
いまその子、フォーチュンクッキーなんか、見た
だけで割れちゃうのよ!?
わかる? お兄ちゃん。
それが願いの力よ?
わかったら、やってみましょう。
まずは拳を握りしめて!
真っ赤に焼けて、光を放つまで握りしめて!!

     *     

ああ、はい、また回すんですね。
さっさとやったら良いと思います。
さっきはダラダラと無駄話してごめんなさい。
ちょっと慎もうかな。
どうぞガチャを回してください。
どうせまたこれも違ーうとか言うんでしょう?
わかってますとも。
お兄ちゃんはそーゆー人だって。
「村長んちの長男は優柔不断で芋も切れない」
って、隣のおばちゃんも言ってました。
それからしばらく、優柔不断と芋の関係で悩んだ
りもしたけど、答えは出ないまま。
お兄ちゃんの優柔不断な姿を見るたび、隣のおば
ちゃんの言葉が脳裏に浮かぶ日々が続きました。
そんな悩みに答えが出たのが2年前。
遠くに蝉の声が響く、夏の午後でした。
お兄ちゃんが部屋で、おじいちゃんが掘ってきた
芋を目の前に置いて、固まってました。
「どうしたのお兄ちゃん?」
「えっ? おじいちゃんが芋を掘ってきて……」
私はそれ以上聞きたくなくて、遮るように言葉を
続けた。「おいしそう! すぐ食べよう?」
「うん、でも、大きすぎるよね?」
「ひとりでは大きくてもふたりなら平気!」
私の脳裏におばちゃんの言葉が繰り返す。
『村長んちの長男は優柔不断で芋も切れない』
振り払うように頭を振った。少しの間。
お兄ちゃんはすぐに言葉を続ける。
「だからこれ、切ろうかどうしようかと……」
「言わないでっ!!」
思わず耳を塞ぐ私にたじろぎながらも、
「でもどう切ればいいかわからなくて……
さっきからずっと悩んでいたんだーーっ!!」
「やめてーーーーーーーーっ!!」
…………………………………………………………
………………………………………………………。
あのね、お兄ちゃん。よくよく考えてみると悪い
のは全部隣のおばちゃんだと思う。
あの、境界線のことに妙にうるさくって、夜にな
るとなんか、変な祈祷をはじめてた……。
そうそうあの、ありがたい御札をわけてくれてた
カーラー巻いてたおばちゃん。
そんなわけだから、回して!
回しちゃって!
私をふっきれさせて!

     *     

あーんもうまたー!
なんで満足してくれないの!?
お兄ちゃん、何様!?
捨てられる防具が可哀想でしょう?
お兄ちゃんに捨てられた哀れな防具は、どうやっ
て生きていったらいいの?
この世に使えない防具なんていらないなんて言う
なら、お兄ちゃんはどうなのよ!?
お兄ちゃんの、人間としてのレベル、教えてあげ
ようか?
1よ!?
お兄ちゃんの人間としてのレベルは、1!!
まだ何も実績がないぺーぺー!!
そのレベル1の人間がどうして選り好みするの?
どんなものを頂いても、ありがとうございます、
喜んで使わせていただきます……。
って言うのが、まっとうな人間じゃないかなぁ?
私だけじゃないわ、みんな言ってるわ。
例えるなら、お兄ちゃんがやってることは、何箇
所も刺していく蚊ァみたいなもんでしょ!?
1箇所だったら見逃せるけど、何箇所も刺すって
自分の立場わかってんのって話でしょ!?
1箇所刺されたら叩き殺せばいいけど、3箇所刺
されたからって3回殺せないのよ!?
この怒りどうしたらいいの!?
あと2回! 責任取ってよ、蚊ァ!
何勝手に死んでんのよ!! 来世とその次、ちゃ
んと血ィ吸わないで殺されんでしょうね!?
みたいな怒りも、なんかもう、まとめてお兄ちゃ
んにぶつけるしかないんだからねっ!?
冗談で言ってるんじゃないわよ?
この言葉は呪いよ?
ガチャ回したら回しただけ蚊ァに刺される箇所が
増えるのよ?
それから、ちゃーんと覚えておいて。
「蚊ァに3回刺されても、蚊ァは3回殺せない」
お兄ちゃんもこの復讐できなくて身悶える感覚を
覚えるといいわ!

     *     

はいではお次。さくっと参りましょう!
がんばって! お兄ちゃん!

     *     

あ、何?
ガチャ?
まだやってたの?
私何かコメントしたほうがいい?
前のはどうだったの?
もう捨てた?
捨てて次?
いや、その段階でどうコメントしたらいいの?
私だってねぇ、言いたいわよ。
いい防具出たわねぇ! とか。
それ流すんだったら私にちょうだい! とか。
でももうない、次のガチャやります、って。
私は何を言えばいいのっ!?
兄妹なのよ? 参加させてよ私にも。
ま、お兄ちゃんは何を着てもお似合いになるしー
私の意見なんか聞くまでもないと思うけどー。
で、それを着て冒険に行かれるんでしょう?
楽しいんでしょうねー。
仲間をみつけてわいわいと繰り出して。
お互いの装備を見せっこして?
これはなんとかって敵を倒して手に入れたんだー
とか、自慢話に花を咲かせるんでしょう?
もうお兄ちゃんってほんと、人生をエンジョイし
てるなーって思う。
あ、ちょっとごめん、そこどいてもらえる?
お部屋の片付けをしてたとこなの。
お兄ちゃんは散らかしてばっかりだし。私がしっ
かりしないと、どうなるんだろう、この家。
え? ガチャが終わったら手伝う?
もー、そのお話昨日も聞いた気がするー。
昨日はどうだったー?
用が済んだら、ベッドに直行してたよねー?
はいはい、わかりますわかります。
大変な冒険がはじまるんですもの。
どーぞ、お兄ちゃんは良い装備を揃えて、明日に
備えてぐっすりと休んでくださいませ。
えっ!? 今のちょっと嫌味っぽかった?
おかしいなぁ、そんなつもり無いんだけどなぁ。
お兄ちゃん大好きですから。
はいはい、がんばってね。

     *     

バカちんが―――――――――――っ!?
まだ迷いよーとか―――――っ!?
はよ次のガチャば回して決めれーっ!?
装備ば決めれーっ!?

     *     

こういった、無意味なテキストを無意味にたくさん書く仕事は大好きなので、依頼お待ちしています。

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