第三話 フローレンス城

1. フローレンス城 外
まばらな林がある遊牧地、いくつかの家や小屋、なだらか起伏がある草原、半自然の堀を越えたところにフローレンス城が建っている。曇天。風は強く、城門に飾られた旗を強くはためかせている。
エレインたち4人を乗せた馬車が城門をくぐる。御者台はデーニュ。

2. フローレンス城 ホール
外に馬車が止まり、アニエス参謀長(24)が2名のアバラボーンズ(髑髏模様の黒騎士)を従えて玄関ホールに出向かえる。
馬車からはコーニュの肩を借りてアシュリンが降りてくる。
ホールの奥から車椅子を押したアバラボーンズが来て、アシュリンを迎える。

3. フローレンス城 執務室
古く格式のある椅子や机、サイドボード、本棚、積み上げられた資料、壁には地図が掛けられている。
応接用のソファで本を顔に乗せて寝ているファデリー 。
T:『第三話 フローレンス城』
SE:ノックの音
アニエス(オフ) 「参謀長、アニエス・ベルナウア。アシュリン様をお連れしました」
ファデリー(32)「(寝たまま)ああ、通せ」
SE:ドアが開く音
アニエス(オフ) 「失礼します」
アニエス、ファデリーの近くまで来る。後ろにはアシュリンの車椅子を押すコーニュの姿がある。(カメラには映らないが、更に後ろにデーニュとエレインもいる)
ファデリー 「(寝たまま)何かあったのか?」
アニエス 「そこを空けてもらえますか?」
ファデリー、顔の上の本を取ってアニエスの顔を見る。
  ✕   ✕   ✕
時間経過。
さきほどファデリーが寝ていたソファに、大きなクッションに支えられるように熱っぽいアシュリンが座っている。その後ろに控えるデーニュとコーニュ、その横にエレイン。
ファデリーはアシュリンの対面のワンシーターのソファに座り、その後ろにアニエスが控える。
アシュリン 「……報告は以上になります」
ファデリー 「わかった。あとはもう無理はせず休んでいろ」
アシュリン 「はい」
ファデリー 「(アニエスに、エレインを差しながら)そいつが悪霊を倒したメイドか?」
エレイン 「ああ、そういうことになってるみたいだな」
エレインを睨むデーニュ。
デーニュ 「(小声で)なんだその言葉遣いは」
ファデリー 「かまわん。『そういうことになってる』とはどういう意味だ?」
エレイン 「考え方次第だ。難しく考えるな」
ファデリー 「ああ(呆れ)、わかったそうしよう。なぜここへ来た?」
アニエス 「働き口を探しているそうです」
ファデリー 「メイドの?」
ファデリー、あらためてエレインの様子を見やる。メイドの服は来ているが体躯が大きいので服が短い。胸元にはサラへのお土産にと手に入れたブローチが飾られている。(後にサラに譲られる)
コーニュ 「ファデリー閣下、エレイン殿は態度はともかく、おぞましき悪霊を一刀両断、アシュリン様のお命をお救い下さった方です。実力は折り紙付きかと」
アシュリン 「私からもお願いします、兄上」
ファデリー 「エレイン。ファミリー・ネームは?」
エレイン 「(明るくきっぱり)ないっ! 物心ついた時から天涯孤独だ! あ、今は娘が一人いるがな」
エレイン、ソファの前に出て、アシュリンの隣に大股を開いて座る。
エレイン 「実を言うと、傭兵がしたいわけじゃないんだ。仕事があればなんでもいい」
ファデリー 「ああ、その話は後で聞こう」
エレイン 「ありがとう! それから、また別の話なんだが、聞いてもいいかな?」
デーニュ 「(小声で)態度でけぇよ」
ファデリーは返事はしないが話は聞いている。
エレイン 「(前のめりになり)この子に剣を教えたヤツに会いたい」
デーニュとコーニュは疑問の表情を浮かべ、顔を見合わせる。
ファデリー 「アシュリンの剣を見たのか」
エレイン、微笑んでうなずく。少し困った様子のアシュリン。
ファデリー 「どういうことだ? デーニュ、コーニュ。アシュリンに剣を握らせたのか?」
デーニュ、コーニュ、頭を捻る。
デーニュ 「い、いえ、そんなはずは……」
エレイン 「(肩をすくめ)あ、もしかしてこれって、言わないほうがよかった?」
アシュリン 「(意を決し)あ、あの、タッカーのお城を荒らす化物がいたから! 私が……!」
全員が一斉にアシュリンの顔を見る。
ファデリー 「いたから? いたからどうした? (コーニュの方を見て)コーニュ!(叱責)」
コーニュ 「いや、ええっと……」
アシュリン 「あの、大丈夫なんです! 私、討ち取りましたから!」
デーニュ、コーニュ、ぎょっとしてアシュリンを見る。
エレイン 「(取り繕うように)あ、ああ、そうだったな、腕は互角っていうか、がんばってたよ! 大善戦だったと思うよ!」
デーニュ、コーニュに疑問の顔を向けるが、コーニュも首をひねって応える。
アシュリン 「(ムッとしながら)私のほうが押してました!」
エレイン 「(対抗して)あんたがそう思ってるだけで、向こうは魔法も使ってなかったし、ろくに反撃もしてなかっただろう?」
デーニュ 「(コーニュに小声で)何があったんだ?」
コーニュ 「(デーニュに小声で)俺に聞くなよ」
アシュリン、何か言おうとするが飲み込んで。
アシュリン 「そうなんですか……?」
  ✕   ✕   ✕
時間経過。テーブルの上にコーヒーカップを戻すファデリー。デーニュ、コーニュ、エレイン、アシュリンは退場して、ファデリーとアニエスが残っている。
ファデリー 「しばらくアシュリンを頼む」
アニエス 「私が? デーニュコーニュと共に姫の護衛にあたるということですか?」
ファデリー 「いや、あのふたりはアシュリンから離す。城の警備にでも当たらせておけ」
アニエス 「そうですか……」
ファデリー 「アシュリンは伯父の家に預ける。準備をさせてくれ」
アニエス 「わかりました。だけどどうして……?」
ファデリー 「アバラボーンズといっしょでは縁談もままならんからな」
アニエス 「縁談?」
ファデリー 「おかしいか? こんな時に縁談の話など。だが、あれには人並み外れた才覚がある。この国から出してやりたい」
アニエス 「いや、そうじゃなくって、アシュリン姫、好きな人いますよ?」
しばらく間を置いて。
ファデリー 「えっ?」

4. 同、渡り廊下
廊下を早足で歩くアニエス。それに追いすがるデーニュとコーニュ。
アニエス 「決定だそうです。私には覆せません」
デーニュ 「取り入ってくれたっていいだろう? 俺たちだってがんばってんだから」
コーニュ 「俺たち以外に、だれがアシュリン姫を守れるっていうんだよ!」
アニエス 「大丈夫です。アシュリン姫の護衛は私が仰せつかりました」
コーニュ 「何の冗談だよ、それ」
アニエス 「もう決まったことです。おふたりは城の警備を」
デーニュ 「いやだからさあ、俺たちの代わりはお前じゃ無理だよ、腕が違いすぎるって!」
アニエス、立ち止まり、聞こえるように大きなため息、帽子をとって髪をおろし、表情も一転し女海賊の顔になる。
アニエス 「(デーニュを睨みつけ)バカにすんじゃねえよ。こちとらアバラボーンズの指揮をまかされてんだ。文句があるならファデリーに直接かけあいな!」
デーニュ 「あ、あのう、はい……」
コーニュ 「(一人ごとのように)て言うか、こんなんで解任されるの、失脚したみたいでヤなんだよ」
アニエス 「『みたい』じゃねえんだよ。失脚だよ失脚! 更迭されんだよ!」
コーニュ 「(うずくまって耳をふさいで)キャー! 言わないで! それだけは言わないで!」

5. 同、アシュリンの部屋
ベッドに寝てるアシュリン。エレインは立って窓の外を見ている。
アシュリン 「気にかけて頂いてありがとうございます」
エレイン 「ああ、起きてたんだ」
アシュリン 「傭兵の件、私の方からもう一度兄上に確認しておきます。今しばらくお待ちいただけたらと……」
エレイン 「気にしなくていいよ。こうやって既成事実を作って、勝手に入り込んでいくからさ」
アシュリン 「勝手に……?」
エレイン 「普通はこんな見ず知らずの人間を、お姫様とふたりきりにはしない。雑な組織だよ」
アシュリン 「やっぱりそう見えますか……?」
エレイン 「どうせならずモンの成り上がりだろう? そのくらい、見てわかるよ」
アシュリン 「お恥ずかしい限りです」
エレイン 「いや、付き合いやすくていい。あんたの腕もすごかったよ」
アシュリン 「めっそうもない。ハルクロ様からは、まだまだ護身術レベルだって言われます」
エレイン 「ハルクロ様と言うのは……?」
アシュリン 「あ、はい。私に剣を教えてくれた方……」
エレイン 「そうか。会ってみたいもんだな」
アシュリン 「悲しいひとですよ。国に子どもを残して、騎士団に志願して来たとかで……」
エレイン 「(驚いて)そうだ、子ども!」
アシュリン 「ひどいですよねえ、子ども、置き去りだなんて……」
エレイン 「(苦笑いしながら)そ、そうだよねー」

6. ルナリア(異界)のアルプスの山的な場所
高い山の上の草原。野生の大きな角のあるヤギの群れ。茂みからそれを見ているサラと白黒のヤギ2匹。
サラ 「どれにする?」
白黒のヤギ2匹の視線が同時に1匹のヤギへと動く。
見つめられたヤギへズームアップ、キリッと柳楽優弥の目をしたイケメンヤギの姿がある。
サラ 「いい選択だと思う、あとは?」
白黒ヤギの視線が、別方向の別のヤギへと向けられる。
見つめられたヤギへズームアップ。クールな神木隆之介の目をしたイケメンヤギの姿がある。
サラ 「こっちもなかなか。わかった、行きましょう!」
鼻息を荒くする白黒ヤギ。
  ✕   ✕   ✕
目をつけた2匹のヤギは手脚を縛られ棒に逆さに釣られ、棒はサラたちに担がれてる(白黒ヤギは羊のショーンのように2本足で立って棒をかついでる)。
セミシルエットで、山を降りている。
7. ルナリア(異界)エレインの家の前(夜)
2匹のイケメンヤギは白ヤギ黒ヤギと交尾している。白ヤギ黒ヤギは恍惚の表情。サラは本を読んでる。

8. フローレンス城 アシュリンの部屋
ベッドで眠るアシュリン、その脇の椅子で本を読んでいるエレイン。
SE:あわただしい足音
エレインが顔を上げる。

9. 同、廊下
アバラボーンズがデーニュコーニュと話をしている。
コーニュ 「総数は?」
アバラボーンズ 「20か30かと」
デーニュ 「そんな数で城攻め? 敵はバカなのか?」
アバラボーンズ 「数は確かにそうですが、やっかいなのが二人混じっています」
コーニュ 「やっかいなの?」
アバラボーンズ 「一人は、ソードマスター・マリウス」

10. 同、正門外
マリウスとハイブリス兵5人がいる。足元にはアバラボーンズ3人が転がっている。
マリウス(17) 「ボクが撹乱します。あなた達は人質を探してください」
ハイブリス兵 「ハッ!」
四方に散るハイブリス兵。
ハイブリス兵の姿が消えたあと、5人のアバラボーンズが飛び出してきて、マリウスを取り囲む。
アバラボーンズ 「何をしに来た!」
次々と刀を抜くアバラボーンズ。マリウスは(哭きの竜のように)手を目の下あたりにかざして、いけすかないポーズで立っている。
マリウス 「5人でボクの相手ができますか?」
マリウス、ゆっくりと手を動かす。
光の弾が5つ、順に浮かび上がる。
マリウス 「ディプロイ」
光の弾は、長く伸びて5本の光の剣になる。
アバラボーンズは身を固くし、マリウスはそのままポーズを決めている。
コーニュ(オフ) 「(次のカットからのずりあげ)マリウス・トゥリート? 若造だろう?」

11. 同、廊下
アバラボーンズ 「ゆくゆくは評議会議長になると言われる男です。見くびってはいけません」
デーニュ 「もう一人は?」
アバラボーンズ 「もう一人は賞金稼ぎ……」
デーニュ 「賞金稼ぎ……?」
アバラボーンズ 「ウケ狙いの、ドレッド」
コーニュ 「ウケ狙いの」

12. 同、正門外
マリウスがディプロイのポーズを決めてるところにドレッド登場。
ドレッド(21) 「幹部候補生の坊やは相変わらずまどろっこしいことをやってるようじゃねえか」
アバラボーンズ 「お前は……受け狙いのドレッド」
ドレッド 「ああ? 誰が受け狙いだって!?」
ドレッド、歩いてきて、空き缶を踏んでバランスを崩す。
ドレッド 「ぬわっ!」
続いてクワを踏み、クワの柄が立ち上がって顔面に直撃。
ドレッド 「ぶぺっ!」
よろけて猫の尻尾を踏んで、驚いた猫が走り出し、植木台に突進、植木台は倒れ、植木鉢がたくさんドレッドめがけて転がってくる。それをひょいひょいと避けるドレッド。
ドレッド 「ほっ! ほっ! うりゃっ!」
イリーガルに跳ね上がった植木鉢をキックして躱す。
ドレッド 「とうっ!」
その植木鉢が高い足場の上に置かれた樽に激突、樽はぐらぐらして落下、ドレッドにすっぽりとはまる。
ドレッド 「ふんがぼっ!」
ドレッド、後ろ向きにこけて逆立ち状態になるが、そのまま勢いをつけて一回転して起き上がる
ドレッド 「ぬおおおっ!」
が、バナナの皮を踏み、
ドレッド 「ほひょう!」
横向きに転んで、そのままゴロゴロところがって退場する。
ドレッド 「ひょぉぉぉぉーっ!」
ドレッドが転がって行った方をながめるアバラボーンズ5人。
カッコつけて立ってるマリウス。
カメラは引いて全体を見せるが、ドレッドが立ってたあたりに樽が落ちてきそうな構造物はない。
ロングショットの画面に縦書きで文字が表示される。
T:樽は
  どこから落ちて
  きたんだろう

13. 同、廊下
デーニュ 「じゃあ、俺がマリウスを抑える。(コーニュに)おまえにはウケ狙いを任せる」
コーニュ 「いいとこ取りかよ!」
ファデリー(オフ)「マリウスは二人で行け」
背後にファデリーの姿を見留めるデーニュとコーニュ。その後ろにはアニエスもついている。
ファデリー 「ドレッドは俺が抑える。アニエス、アシュリンを頼む」
アニエス 「姫を?」
ファデリー 「街道に別働隊がいる。裏道からここを出て合流しろ」
アバラボーンズ 「敵の狙いは人質奪還だと思われますが、そちらはいかがいたしましょう」
ファデリー 「人質はいい、奪わせておけ」
アバラボーンズ 「よろしいので?」
ファデリー 「ああ、もう役目は終わった」

(ABパート分けるとしたらここまで)

14. 同、拷問部屋
ハイブリスが一人囚えられている。
3人のハイブリスが入ってきて、拘束されたハイブリスに駆け寄る。
ハイブリス(救助A)「待ってろ、すぐ開放してやる」
ハイブリス(拘束)「すまない。ここで果てるのかと思った」
ハイブリス(救助A)「あまり期待するな。果てる場所が変わるだけだ」
ハイブリス(拘束)「俺は何もしゃべってない! 天空のエロールに誓って!」
別のハイブリス(救助B)、部屋を見回す。拷問具の数々が目に留まる。
アイアンメイデン。
T:アイアンメイデン
ギロチン振り子。
T:ギロチン振り子
異端者のフォークと拷問椅子。
T:異端者のフォークと拷問椅子
三角木馬。
T:三角木馬
ハイブリス(救助B)「これ絶対喋るだろ」

15. 同、正門前
アバラボーンズの死体が山と築かれている。
樽に座りパックの豆乳を飲んでるマリウス。
デーニュ(オフ) 「優雅に豆乳飲んでんじゃねえぞ!」
マリウス、声を聞いて振り返り、デーニュ、コーニュの姿を見留める。
コーニュ 「(首をぽきぽきしつつ)準備運動は済んでんだろうな」
マリウス、ゆっくりと立ち上がり、目の下に手を構える。
マリウス 「仕方がありませんね」
マリウス、手をゆっくりと移動させる。その軌跡に4つの光の球が発生する。
コーニュ 「隙あり!」
コーニュ、剣を振り上げ、マリウスに襲いかかる。
マリウス 「ねーよ!」
マリウス、左手でカウンターパンチ。
コーニュ、顔面を正面から殴られ体を浮かせてる(昔のボクシング漫画にありがちな構図)。
マリウス 「ディプロイ!」
マリウスのまわりの光の球4つが剣に変わる。
4本の剣がデーニュに襲いかかる。
デーニュは剣を抜き、4本の剣の攻撃を次々に受ける。
マリウス、それを見て口角を上げる。
マリウス 「フッ」
マリウス、手を下からくいっと上に上げる。
剣の1本がくるっと縦後ろ向きに回って、下からデーニュを切り上げる。切っ先がデーニュの服を裂いて、剣が触れたところは炎が出て焦げる。
デーニュ 「熱っ! なんだこれっ!」
他の剣も不規則な動きで攻撃をかけてくる。剣は発する熱で周囲の空気を揺らめかせる。
必死に剣で受けてかわすデーニュ。
デーニュ 「待て! 剣の動きじゃないこれ! ずるい!」
マリウス、片手で光の剣を操作し、左手で豆乳を飲んでる。
デーニュ 「豆乳飲んでんじゃねえぞ、ゴルァ!」
マリウスの背後、コーニュが ゆっくりと近づいてきて、マリウスの肩に後ろから剣をあてる。
コーニュ 「そこまでだ、マリウス、剣を引いてもらおう」
マリウス 「(たじろぎもせず)そこまで?」
コーニュ 「ああ、引かないと……」
コーニュの首筋に1本の剣が突きつけられている。その剣に気がつくコーニュ。首に1本、手首のとこに1本、股間に1本が見留められる。
マリウス 「引かないと、何? 最後まで言ってもらわないとわかりませんね」
手首に剣が触れると、肌が焼けて煙をあげる。コーニュは思わず剣を引く。
コーニュ 「くっ」
マリウス、手を少し上げる。
コーニュの股間の剣が少し上昇する。剣はズボンに触れ、ズボンは剣の熱で焦げて煙を出す。
コーニュ 「や、やめろっ!」
つまさきだちするコーニュ。
コーニュ 「(ぷるぷる震えながら)ダメ、やめて? おねがい、やめて?」

16. 同、裏門前
ファデリーが立っている。
ドレッドが歩み寄ってくる。
ドレッド 「(歩きながら)ほう……。こいつは大物の登場だな……7歳にしてヴァラー騎士団精鋭と互角の腕を誇ったというあんたの腕……拝める日が来るとはな」
たじろぎもしないファデリー。
ドレッド、ゆうゆうと近づいてくるが、ファデリーの手前にある空き缶で転ぶ。
ドレッド 「ぬわっ!」
カメラはファデリーの顔をとらえる。
無表情なファデリー。
画面外で前回と同様のアクシデントが連続しているのが、ドレッドの声とSE、画面のシェイクでわかる。
ドレッド(オフ) 「ぶぺっ! ほっ! ほっ! うりゃっ! とうっ! ふんがぼっ! ぬおおおっ! ほひょう!」
カメラはファデリーの背後へ、ファデリーの背中なめ、樽に入って転がっていくドレッド。
ドレッド 「ひょぉぉぉぉーっ!」
無表情なファデリー。

17. フローレンス城 アシュリンの部屋
ベッドの横に車椅子が置かれている。
ベッドに座っているアシュリン。
エレインは部屋の隅にいて、アバラボーンズ一名が車椅子のそばにいる。
アニエスはアシュリンの手を取る。
アシュリン 「私だけまた、ほかの場所へ行くんですか?」
アニエス 「ええ、ここは危険です。安全な場所へ移動します」
アシュリン 「(残念そうに)お城の名前、私がつけたんです。なのに私はここにはいれないんですね」
アバラボーンズが入ってくる。
アバラボーンズ 「参謀長殿!」
アニエス 「部屋にはいる時はノック!」
アバラボーンズ 「す、すみません。(気を取り直し)街道のハイブリス、増員されました……裏道の方も塞がれた可能性が……」
アシュリン 「(うれしそうに)裏道も? それじゃあ、今は移動できませんね!」
アニエス 「姫、喜んでる場合ではありません。(報告者の方を見て)数は?」
アバラボーンズ 「100はくだらぬかと、それに奥院の幹部らしき姿があります」
アニエス 「奥院の幹部か……こちらを攻める気か?」
アバラボーンズ 「わかりません……。もともと歪みが発生していた広場に設営された陣のようですが、まさかあの数で歪みを視察に来たとも……」
エレイン(M) 「歪みがあるのか……」
エレイン 「敵ってのは何者なんだ?」
アニエス 「カウンシル……ハイブリス評議会っていうド腐れた連中だ」
エレイン 「評議会ね……そいつらを叩きのめしたら、私の株も上がるかい?」
アニエス 「いいねぇ、あんた。その言葉だけで合格だよ」

18. 街道のハイブリス駐屯所 指揮エリア
街道の途中、まばらな林の中。120人ほどの軍が駐留する簡単な拠点がある。馬が停められ、テントが何張りかあり、荷馬車、雑多に置かれた木箱、テーブル、武器等が置かれている。
その中にベルカミーナが立って、指揮棒を持ち、手でぺしぺししている。
ベルカミーナ(33)「歪みはどうなった?」
ハイブリス(参謀)「ハッ! 歪みの方は安定しております! それよりもベルカミーナ様、こちらを!」
ベルカミーナのもとに、人質になっていたハイブリスが連れてこられる。
ベルカミーナ 「ほう、これがアバラボーンズに引っ捕まって人質にされていたマヌケか?」
ハイブリス(人質)「め、めんぼくありません! 」
ベルカミーナ 「チッ……、(カメラ目線で)アバラボーンズが人質を取って、我らが影でしてきた悪事の数々、空間の歪みを作り出したり、それをアバラボーンズのせいにしてきたこと、それらすべてを吐かせたという噂は、事実だったということだな!」
ハイブリス(参謀)「素晴らしいセリフです、ベルカミーナ様。必要な情報を完全網羅しておりました!」
背後で爆発が起きる。
(SE)どごーん!
爆炎がもうもうとあがる。
ベルカミーナ 「何が起きた?」
ハイブリスA 「わかりません!」
ハイブリスB(オフ)「敵襲だーっ!」
ハイブリスC(オフ)「第二小隊がやられた!」
ハイブリスD(オフ)「ベルカミーナ様を!」
ベルカミーナ 「正面から派手に乗り込んでくるなど、敵はバカなのか?」

19. 街道のハイブリス駐屯所 はずれ
駐屯所内、指揮エリアから少し離れた場所。木陰に潜んでいるエレイン。
駐屯所中央付近に火の手が見える。あわただしく駆け回る人々の姿がある。
エレイン 「まじぃ、なんかに引火したなありゃ」
エレイン、顔を出して覗くと、近くで警戒しているハイブリスの姿がある。
エレイン 「チッ」
エレイン、ハイブリスの斜め上を指差すと、そこに火球が発生する。
ハイブリスがそれに気がつく。
エレインは指を動かす。
火球がハイブリスに襲いかかる。
別のハイブリスが駆け寄ってきて、火球の発射点へ魔法弾を打ち込む。
それを確認して、エレイン、反対側へ駆け去る。

20. 街道のハイブリス駐屯所 指揮エリア
近くで爆発音が轟く。ハイブリスAとベルカミーナが戦況を伺っている。
ハイブリスEが来て、ベルカミーナに駆け寄る。
ハイブリスE 「ベルカミーナ様」
ベルカミーナ、振り返る。

21. 街道のハイブリス駐屯所 裂け目エリア
空間の裂け目がある。
びりびりとした地響き。裂け目の向こうは謎の空間。
ベルカミーナとハイブリスAがハイブリスEに案内されてくる。
ハイブリスE 「こちらです」
ベルカミーナ 「こ、これは、高レベルの魔法使いなら自在に行き来ができるが、一般人は特殊なアイテムを持っていないと利用できない、異界へと通じる空間の裂け目?」
ハイブリスE 「さようでございます!」
ベルカミーナ 「つい最近まで空間の歪みでしかなかったのに、いつのまにか裂け目になってる! ついに歪みを裂け目に成長させる技術が完成したというのだな! すなわち……約束の地、ルナリアに攻め入ることも出来る!」
ハイブリスA 「素晴らしいセリフです、ベルカミーナ様」
ハイブリスE 「この裂け目はまだ安定しておりませんが、ヴァポラム密林には、もっと規模の大きい歪があると聞いています。それを利用すれば、必ずや」

22. フローレンス城 アシュリンの部屋
アシュリンの部屋、アニエスたちの姿はなく、扉は開け放たれている。
窓の外を見ているアシュリン。
アシュリンが見ている先の空間は揺らめいているように見える。
SE:ドアをノックする音。
アシュリン、振り向き、入り口にアニエスの姿を見留める。
アシュリン 「どうぞ」
アニエス、部屋に入り、ドアを閉じる。
アニエス 「出発を遅らせます。何者かが街道のハイブリスと交戦中で……」
アシュリン 「何者かって、もしかしてエレイン……」
アニエス 「いえ、まだはっきりそうだとは……」

23. 街道のハイブリス駐屯所
炎に包まれ、混乱した駐屯地。
トイレに火球が直撃、中に隠れていたハイブリスが這い出てくる。
空中には次々と火球が発生し、それがハイブリス兵めがけて飛ぶ。
ハイブリスは火球に向かって魔法弾を浴びせて抵抗を試みる。が、魔法弾はすり抜け、火球の直撃を食らう。
ハイブリスはどんどん火球に撃たれて倒れていく。
ベルカミーナ 「あの火球、ブラスト級であろう? なぜあそこまでダメージを受ける!」
ハイブリス 「わ、わかりません!」
ベルカミーナの背後に火球が発生する。
ハイブリス 「ベルカミーナ様!」
ベルカミーナ、手のひらを横に広げ、マナウォールを発生させる。
火球はマナウォールを貫通してベルカミーナに直撃。
ベルカミーナ、吹き飛ばされ、倒れる。
ベルカミーナ 「げふっ! (顔を上げて)貫通?」
倒れたまま警戒するベルカミーナ。
低い位置、馬車の底面の隙間からエレインの足が見える。
ベルカミーナ 「(足見留め)あれは?」
足は右へ左へと歩きまわっている。
ベルカミーナ、足に氷弾を飛ばす。
氷弾は足を氷づけにし、転ばせる。
転んだのはエレイン。
ベルカミーナ、エレインの顔を見る。
エレイン、ベルカミーナに気付き、不敵に笑い、火球で氷を割り、走り去る。
ベルカミーナ 「待てっ!」
ベルカミーナ、立ち上がって追う。
ハイブリスがその場に残される。
ハイブリス 「ベルカミーナ様!」

24. フローレンス城 アシュリンの部屋
アニエスとアシュリンが窓から中庭を見ていると、デーニュ、コーニュが走ってくる。
空から20本以上の光の剣が降り注ぐが、デーニュ、コーニュかわし、地面に次々突き刺さる。
デーニュ、コーニュ逃げる。
マリウス追ってきて、光の剣30本を発生させる。
アシュリン 「あれは?」
アニエス 「おそらく、ソードマスター・マリウスかと」
アシュリン 「あれがソードマスター。ずいぶん幼いのですね」
SE:ドアが開く音
ハルクロ(41)(オフ) 「俺のボトルを知らんか?」
ハルクロ、ズカズカと部屋に入ってくる。
アシュリン 「(見留め)ハルクロ様……(憧れ)」
アニエス 「(ハルクロに)ファデリー閣下のお部屋では?」
ハルクロ 「いいや、なかった。あの男、隠しやがったな」
ハルクロは、カップボード、クローゼットと開け、中をのぞき、テーブルの上のボトルを取り、ラベルを見る。
アニエス 「ハルクロ様」
ハルクロ 「なんだ?」
ハルクロ、アニエスの方を見るとアシュリンも目に入る。
アシュリン、うれしそうに微笑む。
アシュリン 「おかえりなさいませ、ハルクロ様」
ハルクロ 「(ボトルを開けながら)ああ、ただいま」
ハルクロ、ボトルを口にする。
ハルクロ 「(アシュリンに)いつからこっちにいる?」
アシュリン 「つい先日より」
ハルクロ 「クルーゼンブルクはとうとう沼に沈んだか?」
アシュリン 「まだ東の離れの井戸は生きております。だけど、私の病が悪化して、それで」
ハルクロ 「それで空気の良いこちらへ来たというのか? ハッ。デーニュ、コーニュめ。こっちに移る機会を探していたからな。療養は口実だ」
アシュリン 「口実……」
ハルクロ 「おまえはさっさと病を直せ。おまえのほうが教え甲斐がある」
アシュリン 「(照れながら)は、はい」
アニエス 「(窓の外を見ながら)デーニュ、コーニュはどうします?」
ハルクロ、窓の外を見る。
デーニュとコーニュがマリウスに追われて逃げ回っている。
地面から剣が無数に突き出し、デーニュ、コーニュ必死によける。
ハルクロ 「マリウスか。派手な技を使うようになったな。バカ弟子二人じゃ物足りんだろう」
ハルクロ、ボトルから一口飲んで、アニエスにボトルを渡す。
アニエス 「では、ハルクロ様がお相手を?」
アニエス、ボトルを口にし、飲んで、アシュリンにボトルを渡す。
アシュリン、わくわくしながらボトルを受け取る。
ハルクロ 「(窓の外の様子を見たまま、ほくそ笑み)その暇はなかろう。やつらはもう撤退する」
アシュリン 「(ハルクロを見ながら)すごい。わかるんだ」
ハルクロ 「(アニエスを見て)ところで街道の部隊を叩いてるのは誰だ?」
セリフにかぶせて、後ろでボトルを飲んでるアシュリン。
アシュリン(M) 「ジュースだこれ(レイティング対策)」
アニエス 「姿は確認しておりませんがおそらく……」
ハルクロ 「背の高いメイド服の女だ。心当たりはあるか?」
アシュリン 「(手に持ってたボトルをおろし)エレイン!」

25. 燃え盛る森
エレインを追い詰めたベルカミーナ。
ベルカミーナ 「どう? 気持ちいい?」
エレイン 「気持ちいいって、何が?」
ベルカミーナ 「100人の部隊を、一人で全滅させたのよ? 気持ちよかったでしょう?」
エレイン(M) 「えっ? だから、何?」
ベルカミーナ 「指で弾いた程度の魔法で、鍛え上げた兵士が吹き飛ぶのよ?  私にもやってみれば?」
エレイン(M) 「なんなのそれー」
ベルカミーナ 「異界ルナリア。ピンクのカバが住むところ……」
エレイン(M) 「住んでないってー」
ベルカミーナ 「そこには一切の防御ができない逆位相魔法の使い手がいると聞いたことがあるわ。そう、ちょうどあなたみたいに!」
エレイン 「まあ、そのあたりは正解」
ベルカミーナ 「ルナリアはエロールの裁きにより、この地が滅びたあとの安住の地。そう聞いていたけど、間違いだったかしら?」
エレイン 「は、はあ……(仕方なく相槌)」
ベルカミーナ 「決めたわ! ルナリアの民はすべて始末する!」
エレイン 「始末ぅ?」
ベルカミーナ 「まずはあなたからよ!」
ベルカミーナ、巨大な魔法を詠唱なしで放つ。
エレイン 「うおおぉぉっ!」
エレイン、とっさに身を伏せ、カウンターで魔法を放つ。
エレインの魔法は、ベルカミーナの魔法を貫通してベルカミーナを襲う。
悲鳴をあげて倒れるベルカミーナ。
ベルカミーナ 「きゃあああああっ!」
エレイン、起き上がる。
エレイン 「(駆け寄りながら)大丈夫か?」
ベルカミーナ、倒れたまま笑ってる。
ベルカミーナ 「クックックッ……。屈辱は、嫌いじゃないわ。むしろこれが、私の糧。そうでしょう? 心の傷がすべて覚えているわ!」
エレイン(M) 「何このめんどくさい人……」
ベルカミーナ、手も使わず重力無視して立ち上がる。
ベルカミーナ 「どうしたの? もう終わり? それとも哀れみ? 違うわ。楽しいんでしょう? 私をいたぶりたいんでしょう? やっていいのよ?」
ベルカミーナ、蛇のような目で笑みを浮かべてエレインに迫る。
エレイン(M) 「たしゅけてー」
ベルカミーナ 「見て、血の涙(血の涙が流れる)」
エレイン(M) 「意味がわからないー」
ベルカミーナ 「覚えておくがいいわ! 私の兵100人を奪ったものが、どんな目に遭うか! 覚えておくがいいわ!(血の涙を流しながら)」
エレイン(M) 「こわいよー。このひとこわいよー」

26. ルナリア(異界)エレインの家の前(夜)
サラはテーブルに突っ伏して寝ている。
テーブルの近くで白ヤギちゃん黒ヤギちゃんがジルバを踊っている。
サラが目を覚ましてヤギちゃん立ちの方を見る。
ヤギちゃんたちは目線だけサラの方を見てジルバを踊り続ける。
サラ、また突っ伏して寝る。

(終わり)第三話ここまで

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