ゴマメのスマタ・第4回・マルチシナリオ

 ゲームのストーリーと言えばユーザー参加。
 ユーザー参加と言えばマルチシナリオ。
 ということでマルチシナリオのお話なんですが、めんどくさいことを語るよりはサンプルを載せたほうが良いだろうということでサンプルを載せます。
 桃太郎をベースとしたマルチ展開のシナリオ(のラフ)です。
 読めば分かりますが、ひっじょーにめんどくさいです。
 しかも各ルートにボリューム感出そうとしたら、めっちゃくちゃ工数(=予算)がかかります。
 この桃太郎のお話だって、どこかに提案したら
「素人じゃないんだからちゃんと工数考えろよ」
 なんてことを言われてしまうこと請け合いです。

 実は今回、サンプルに桃太郎を選んだのはちょっとズルいかなぁと思っています。
 桃太郎だったらほとんどの人はあらすじを知っていますので、
『犬が闇落ちして鬼側につくルート』
 と聞けば、頭の中にその情景がぱーっと浮かぶじゃないですか。
 そういう感じのがいっぱいあるんだなぁ、って思うじゃないですか。
 でもこれが桃太郎じゃなかったら、たとえばスケバン刑事で、
『海槌詠巳が生きていて海槌麗巳に入れ替わったルート』
 と聞いても、はあ? って思うじゃないですか。
 それ面白いの? って聞いちゃうじゃないですか。

 でも、「犬の代わりに猫が仲間に入ったりするんですよ~」って言ったら、「それ、いいかもしんない」って思うじゃないですか。

 スケバン刑事なんか桃太郎と比べたら100万倍面白いのに、桃太郎のほうが採用されかねない世界。実際に遊んでみたら面白いけど、文面で面白さが伝わりにくいシステム。マルチシナリオってのはそんな、題材を選ぶのが難しいジャンルなんじゃないかなと思います。

 えー、前置きはこのへんで。
 では、めくるめく桃太郎の世界をご堪能ください。
 4万文字近くあるので、ぜんぶちゃんと読んでたら1時間以上はかかります。

 ↓こういう選択肢が度々出てくるので、クリックして開いてくださいね。

practice
クリックしてみよう!
小吉! 待ち人来るけどすぐ帰る!
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中吉! 高めを狙ったほうがうまくいく!
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大吉! モテキ到来の予感!
桃太郎 in the multiverse
 昔々あるところに、お爺さんとお婆さんが住んでいました。
 ある日のこと、お爺さんは山へ柴刈に、お婆さんは川へ洗濯に出掛けていきました。
 お婆さんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。
 そしてよく見ると、そのとなりに光り輝く竹も流れてきます。

川上から大きな桃と光り輝く竹が流れてきました。
どちらを拾いますか?
大きな桃を拾う
SYSTEM

ここで主人公が『ヒーロー』に決まります。
主人公を選び直す場合は、もう一方の選択肢を選び直してください。

「よいしょーっ!」
 お婆さんはアイテムを拾い上げ、家に持ち帰りました。家に帰ってアイテムを包丁で割ってみると、中からそれはそれは元気で美しい赤ん坊が生まれました。
「この子は、ヒーローと名付けよう」
「まあ、ステキなお名前だこと」
 そうして、お爺さんとお婆さんはヒーローを大切に育てました。

 ヒーローが17歳になる頃、言いました。
「お爺さん、お婆さん、この世界は鬼に支配されています。
 ミーは鬼を倒すために、鬼ヶ島に行こうと思います」
 なんと正義感の強い良い子に育ったのでしょう。
 お爺さんとお婆さんはきび団子を作ってヒーローに持たせ、冒険の旅へと送り出しました。

 ――きび団子か。美味しそうだな。
 でもこのきび団子は食べないで、仲間を増やすために使おう。

 ヒーローがしばらく行くと、屈強な犬がか弱い猫をいじめている場面に遭遇しました。

 ――犬はいかにも強そうだ。戦力になる。
 だが、いじめられている猫を放ってはおけない。

屈強な犬が猫をいじめている。
どちらかを仲間にしたい!
屈強な犬を仲間にする
 猫には申し訳ないが、と、ヒーローは世界を救う使命を優先し、犬を選びました。
 ヒーローは犬にきび団子を渡し、猫を開放させました。
「これからミーは鬼ヶ島へ鬼退治に行く。
 キミの力を貸して欲しい。
 きび団子もあげたし、協力してくれるだろう?」
 だけど、犬は、
「さっきのきび団子は猫を開放したぶんや。
 鬼ヶ島行くんやったらもう1個くれ」
 なんてことを言い出します。
 犬の横柄な態度にカチンとは来たものの、正義をなすためには致し方ない。
 ヒーローは犬にもう1個きびだんごをあげました。

 それから犬と旅を続けましたが、犬は横柄でした。

 ――こんな従者ではいつ裏切られるかたまったもんじゃない。
 早く次の仲間を……

 そう思って歩いていると、屈強な猿がいるのを見つけました。

 ――この猿を仲間に!

 近づくと、猿は尻の下にカニを踏みつけていました。
 恐る恐るヒーローは訊ねる。
「その、尻に敷いているものは……?」
「これ?
 弁当。
 あとで食うねん」

 ――どうしてこう、ガラの悪い連中はどいつもこいつも関西弁なんだ。
 善良な関西人に謝れおまえら。

屈強な猿が「あとで食うねん」とか言って、カニをケツの下に敷いている。
どうしますか?
カニを救けて仲間にする
 ヒーローは横柄な従者には辟易していました。
 きび団子を袋から出して放り投げると、猿は「おおきに」とか言ってきび団子を拾って去って行きました。
 これで仲間は横柄な犬と、乾燥しかかったカニ。
 犬に2個きび団子をくれてやったせいで、仲間はもう増やせそうにありません。
 だけどヒーローは諦めません。

 ――どこかに打算ではなく義憤で動いてくれる仲間がいるはずだ。

 カニは戦力としては頼りないけど、素直な子でした。
 カニは正座して丁寧に礼を述べます。
「ありがとうございます、ヒーローさん。
 ボクたちは、猿たちに虐待されていましたカニ。
 弟は猿に柿を投げられて死にましたカニ。
 このままだと他の家族も殺されますが、ボクはあなたに付いて行くカニ」

 なんということでしょう。
 ヒーローは聞かなくて良いことを聞いてしまいました。

 ――と言うか、語尾がカニだ。

 このまま敵陣へ乗り込むつもりでいたのに、これじゃあ気持ちよく鬼ヶ島へは渡れない。
「鬼ヶ島は逃げないけど、猿は逃げるカニ」
 カニはちゃっかりと自己主張してきます。

カニは猿から虐待されていた。
だけど新しい仲間も探したい。
猿に復讐しに行く
 ヒーローは猿のあとを追いました。
 猿が通ったあとには、食い散らかした柿、潰されたカニが累々と折り重なっています。
 その惨状にヒーローは目を覆いました。

 すぐにヒーローは猿を発見し、追い詰めました。
「なんだてめぇ、鬼ヶ島に行ったんじゃなかったのか?」
「鬼ヶ島はこのあとで行く。
 その前に、まずはキサマの息の根を止める!」
 ヒーローと猿の死闘は翌朝まで続きました。
 予想した通り犬は一切加勢しないどころか、途中で飽きてどこかに行ってしまいました。

 ヒーローは消耗しきった猿を海辺まで追い詰めます。
「なぜ猿とカニとが憎しみ合わなければいけないんだ!
 悪いのは鬼だろう!?」
「ハッ、きれいごとだな。
 オレはカニクイザル……
 カニを食わなきゃ生きていけねぇんだ」
 ヒーローは予想外の言葉に衝撃を受けました。
 動揺するヒーローを差し置いて、体力を使い果たした猿に最後の一撃を食らわせたのはカニでした。

 後日、ヒーローはカニたちを引き連れて鬼ヶ島へ渡りましたが、すでに何者かによって鬼は成敗されたあとでした。
 鬼が溜め込んでいたはずの財宝も持ち去られ、ヒーローは何も持たずに故郷へと帰りました。
 お爺さんお婆さんは何も言わずにヒーローを迎えてくれました。
 人々の元へは奪われた財宝が返されましたが、それが何者の手によるものか、誰にもわかりませんでした。

 鬼がいなくなった鬼ヶ島にはカニたちが住み着いて、鬼ヶ島はカニの楽園と呼ばれるようになりました。……とさ。

仲間を探しに行く
 ヒーローと犬とカニとでは鬼ヶ島を制圧することはできないことは明らかでした。
「仲間を探しに行こう」
 ヒーローがそう漏らすと、カニの表情がぱっと明るくなりました。
 カニはどうやら、猿に復讐する仲間を探すのだと思っているようです。
 ヒーローは困りました。
 だけどそれを説明してやる義理もありません。

 ヒーローが街道を歩いていると、屈強そうなハチに出会いました。
「おまえたち、何をしているハチ」
 ――語尾がハチだ。
「猿を退治しにいくカニ!」
 ヒーローが答えるより早く、カニが答えました。
「なんと、あの憎き猿を!?」
 ハチは見事に食いつきます。
 これではヒーローも否定しにくい。
 ――まあ、ミーがそう言ったわけじゃないし、メンバーが揃ったら鬼ヶ島へいけばいいだけのこと……

 街道を更に行くと、栗に出会いました。
「おまえたち、何をしているクリ?」
「猿を退治しにいくカニ!」
「昆虫までは理解できたが、植物じゃねえか」
 ヒーローは思わずポロッと口に出してしまいました。
「うっせえな、てめぇだってアイテムから生まれたバケモンじゃねえか」
 言われてみたらその通りです。
 ヒーローの正体なんて、本人にすらわかっていません。
 ――と言うか、なぜクリまでもがそれを知っているんだ。
 ちなみに、犬の影が薄いようですが、一応まだついてきています。

 街道を更に行くと、ウスに出会いました。
「おまえたち、何をしているウス?」
「猿を退治しにいくカニ!」
 ――ウスって。
 もはや生物ですらありません。

 海岸へ来ると、波の向こうに鬼ヶ島が見えました。
「猿はあそこにいるクリ?」
 と、ウスが訊ねます。
 ――いや、待て。
 ヒーローがツッコもうかとしたところ、
「混乱するんで、ウスの語尾は『ウス』にしとこうか」
 犬が仕切ってくれました。

 鬼ヶ島へ渡ってきたヒーローたちは、入念に作戦を練りました。
 仕切りは犬がやってくれてます。
「――囲炉裏の中からクリの不意打ち、その次はウスだ。
 おまえは屋根の上で待ち構えておいて、鬼が驚いて出てきたところに上から飛び降りてくる」
「なるほど、その手があったでウスか!」
 ――犬、案外有能かもしれない。
「オレは何をするハチ?」
「ウスの下敷きになった鬼を華麗に刺す!」
「ハチのように刺す!」
 ――と言うか、ハチじゃねえか。
 ヒーローは口に出しそうになったけど、自制しました。

 犬の作戦は功を奏しました。
 鬼の大将を失った鬼ヶ島軍は指揮系統の混乱から自滅。
 白旗を上げ、自ら金銀財宝を差し出してきました。

「猿の姿は見なかったウスが……」
「これから猿を倒しに行くカニ!」
 猿を倒すつもりでやってきたカニたちは、この戦いに満足していませんでした。
「あ、いや、待って、世の中の悪はすべて鬼が原因だから、猿ももういなくなってると思う」
 そう、ヒーローはそう信じてこの島へやってきたのです。その気持に今も違いはありません。
 ヒーローがそう説明すると、クリとハチとは喜びの声をあげました。
 ウスは何も言わず涙ぐんでいます。
「ありがとう、ヒーロー
 これで安心してカニの村に帰れるカニ」
 犬も少し離れたところで涙ぐんでるし、ヒーローも何か達成感のようなものを感じました。
ヒーロー殿はどうなされるウス?」
ミーは故郷に帰るよ。
 お爺さんとお婆さんが待っているんだ」
「手紙書くカニ!」
「ああ、ありがとう」

 故郷へ帰ると、お爺さんとお婆さんがヒーローを迎えてくれました。
 鬼ヶ島から持ち帰った金銀財宝で家を建て直し、それからは何不自由無い生活を送りました。
 ヒーローはカニからの手紙を待ちわびる日が続きましたが、カニからの手紙が届くことはありませんでした。

聞かなかったことにして鬼ヶ島へ
 ヒーローは鬼ヶ島へと向かいました。
 しかし、自分と犬とカニとではとても勝算は立たちませんでした。

 一方カニは、カニの村から離れるほどに表情を曇らせていきました。
 野営が続くある朝、目を覚ますと犬の毛が雑に刈り取られ、隣にはストレスを溜めて鬱屈としたカニの姿がありました。
 カニを問い詰めても何も言いません。
 ヒーローは怒り狂う犬をなだめて、カニに優しい声をかけていましたが、カニは無言でヒーローの袴の紐を切ってしまいました。
 ヒーローの気持ちがぷっつりと途切れたとき、カニの周囲にはドス黒いオーラが放たれていました。
 犬は怯え、震え始めます。
「こ、こいつ、脱皮するぞ!」
「マジか!?」
 カニはみるみる脱皮し、体長5メートルを超える暗黒ガニが姿を現しました。

 怯える犬を尻目に、ヒーローは薄笑みの表情を浮かべています。
「こいつがいたら勝てる……」
「おまえ、バカじゃねぇのか!?
 そいついはおまえへの恨みでそんなになっちまったんだぞ!?
 コントロールできるわけがない!」
「やってみるさ」
 ヒーローは胸の底に沸き上がる興奮と恍惚を、もはや隠すことができません。
 犬はたまらずその場から逃亡します。
「逃げやがったか。
 きび団子2つぶんの礼はしてもらうからな。
 覚えておけよ」

 ヒーローは自我を失ったカニを海へ突き落とし、その背に乗って鬼ヶ島へ渡りました。だがしかし、上陸するや鬼の軍団が立ちはだかる。
 ヒーローとカニは鬼の軍団を相手に無双し、襲いくる鬼をすべてなぎ倒しましたが、最後には自制心を失ったカニがヒーローに襲いかかります。
 カニの攻撃は凄まじいものでした。
 肩と脇腹に攻撃を受けて、もはや立っていることすらおぼつかない。
 遠くから鬼の援軍が集まってくるのが見えました。
 ――ここまでか……
 そう思った次の瞬間、ヒーローの首に伸びてくるカニのハサミが何者かの手によって斬り落とされました。

「おまえにはここで戦うのは無理だ」
 そう声をかけたのは、犬、猿、キジを連れたライバルでした。
「向こうの岩場で隠れているといい」
 そう告げるとライバルと従者たちは躍り出て、華麗に連携して迫りくる鬼たちをばっさばっさとなぎ倒す。
 その様子を見ながら、ヒーローは意識を失ってしまいました。

 気がつくとヒーローは、お爺さんお婆さんが住む懐かしの家に寝かされていました。
「あら、気がついたのね」
ライバルと名乗る人が運んでくれたんだ。
 いやあ、立派な人だったねぇ」
「そうそう、お連れの犬さんから預かったものがあるわ」
 ヒーローはお婆さんから包みを受け取りました。
 包みを開けると、きび団子が2つと、手紙が一通。
 その手紙には、こう書いてありました。
 
 拝啓、ヒーローさん。
 先日頂いたきび団子、お返しいたします。
 ボクはライバルさんに出会って心を入れ替えました。
 ヒーローさんと出会った時いじめていた猫とも和解して、今はいっしょに冒険しています。
 ヒーローさんもどうか、お達者で。

 ヒーローは静かに手紙を握りつぶしました。
 その顔にはわけもなく笑みが漏れてきます。
 ヒーローが暗黒ガニから受けた傷は、黒い瘴気を放っていました。……とさ。

Special

主人公闇落ちエンド達成!
主人公に闇魔法が開放されました

猿を仲間にする
 戦いに優しさなんか要らない。
 ただ強さだけが勝敗の鍵を握るのです。

「猿よ、おまえを仲間にしたい。
 ともに鬼ヶ島へ乗り込み、鬼を討伐しよう。
 ギャラはこの、きび団子ではどうだ?」
「おっ!
 ええなあ!
 カニ食った後のオヤツにしますわ!」

 ――カニは食うのかー。
 そこはなんとか救けてやりたいんだけどー。

 と、ヒーローは思いましたが、躊躇している暇はありません。

 猿はきび団子を受け取ると、カニときび団子を無造作にポケットに突っ込みました。
 犬が猿に訊ねます。
「きび団子、なんぼもろてん」
「なんぼて、見とったやないか。1個しかもろてへんわ」
「ほーん」
「ほーんてなんや」
「オレ、2個」
「はあ? おまえ、きび団子2個もろたんか!?」
 犬と猿がギャラのことを話しています。――マズい。
「あの、いえ、それはですね」ヒーローはは思わず取り繕います。「犬さんの場合、いじめていた猫を開放してもらったぶんが1個と、鬼退治に来てもらったぶんが1個……」
「そんなん、最初に言うてー。
 ほないゆーなら、カニ捨てるわー。
 んーな尻で温ぅなったカニよう食わんわー」
 などと言いながら猿はカニのハサミを持ってブラブラさせていましたが、カニは隙きを突いて逃亡、ヒーローは胸をなでおろしました。

 もうきび団子も底をつきました。
 新しい仲間が見つかったとしても雇うすべがありません。
 ヒーローと従者が街道を歩いていると、罠にはまったキジを見つけました。
「キジおるでー、キジ!」
「救けたら仲間なるんとちゃうかー?」

 ――ああもういやだ。
 これじゃあまるで関西弁は下品の象徴だって言ってるみたいじゃないか。

 ヒーローはそう思いながら、優しくキジに声をかけました。
「大丈夫ですか?
 いったいこの罠はどうしてしまったんですか?」
「どうもこうもないわ、ただ歩いとっただけでこれや」

 ――キジよ!
 おまえも関西人か!

キジが罠にはまって苦しんでいる。
どうしますか?
キジを救けて仲間にする
「いやあ、めんぼくない。
 このままうち帰れんかったらどないしよー思ってたとこや」
 関西弁で語るキジにヒーローは語りかけます。
「キジよ。
 救けたからと言うわけではないが、そなたに頼みがある」
「しゃあないな。聞いたるわ。なんや」
「来るで来るでえ!」
「ナンパの天才、ヒーローさんの見せ場や」
 ヒーローは犬と猿に茶化されながらもキジを仲間にくわえ、鬼ヶ島へと向かいました。

「ちなみにオレのギャラ、きび団子2個。
 こいつは1個」
「うっさいわ」
「オレの半分」
「おまえの1個は猫と交換ゆーとったやないけ」
「あんさんら、ギャラ出るんか!?」
「あったりまえや。
 世の中あまないで」
「わしは?」
「おまえは、助けられたやないか」
「命助けてもろたら、タダで働くのが筋やろ」
「マジかー」

 そんな従者たちでしたが、鬼ヶ島へ渡ってからの活躍には目を見張るものがありました。
 初手は犬が繰り出すチャーリー浜の『ごめんくさい』。
 これで鬼たちを腰砕けにしたあとの、猿による大阪名物パチパチパンチ、間髪入れずにキジが『ごめんやしておくれやしてごめんやっしー』。この時点で鬼の軍勢の大半が戦闘不能に陥りました。
 その後も続けざまに繰り出される往年の吉本ギャグが、不思議なことに鬼たちの世代を直撃します。
「鬼らぜんぶオッサンやで。
 昭和のネタがぜんぶクリティカルしよるわ」
 最後はキジのブチギレた怒鳴り声でどこからともなく赤フン軍団が登場、平泳ぎで駆け抜け、鬼は壊滅してしまいました。
 
 戦いを終えて、鬼が出した金銀財宝を見て『あーりがーとさーん』を繰り出したのは、なんと、ヒーローその人でした。

 この戦いを経て、ヒーローと犬、猿。キジは固い絆で結ばれることになりました。

 ヒーローたちはお爺さんお婆さんが待つ家に帰り、末永く共に暮らしました。……とさ。

Congratulations!

史実エンド達成!
→正エンディングへ

キジを救けて放してやる
「キジよ。
 二度とこんな罠にかかるんじゃないぞ」
 ヒーローの言葉を聞いて、キジの目から大粒の涙がこぼれ落ちました。
「なんとお優しいお言葉……
 この御恩は一生忘れません」

 キジは西の空へと飛んでいき、従者は犬と猿のみになりました。
 だけどチームは少しずつまとまりを見せてきていました。
 やる気がなかった犬も、猿とのコンビはなぜかうまく行っています。
「どうもーわんわんきっきですー」
「ぼくら、犬と猿とでコンビ組ませてもらってるわけですけどね、世間では犬猿の仲って言いますでしょう?」
「そうそう、犬猿の仲。最初の頃はぼくらもいろいろあったんですわー」
 ヒーローは――関西人をふたりセットにしたら漫才の練習をはじめる――という知見を得ました。

 だけどそんな彼らも、鬼ヶ島へ渡ってからは苦難の連続でした。
 海岸線にベースキャンプを作り、ゲリラ戦を仕掛けては各個撃破を繰り返しましたが、こちら側が受ける被害も大きく、上陸から7日目、ヒーローの脳裏には撤退の2文字が浮かんでいました。

 その夜、ベースキャンプの扉をノックする者がいました。
 恐る恐る扉を開けてみると、そこにいたのは美しい和装の女でした。
 女は足を怪我しているようです。
「旅の途中、迷ってしまいまして……」
「旅って! 孤島やで、ここ!」
 猿がツッコむ。

 ヒーローは女に食事を与え、寝床を提供しました。
 翌日、女はヒーローに礼がしたいと、機織り機を貸して欲しいと申し入れてきました。
「機織り機って!」
「ベースキャンプやで、ここ!」
 犬がトスを上げて、猿がツッコむ。

 補給も途切れた孤島のベースキャンプ、物資は極端に不足していたが奇跡的に機織り機だけはありました。
「なんで機織り機があんねーん!」
「決して中を覗かないでください」
「鶴の恩返しかーい!」
 そう言い残して、女は機織り部屋に入っていきました。
「機織り部屋まであるんかーい!」

 夕方、女はボロボロに疲れ果てた様子で機織り部屋から出てきました。
「これを……」
 と差し出されたのは、乾闥婆陣鉢、乾闥婆作務衣、乾闥婆手甲、乾闥婆筒袴、乾闥婆脛当の乾闥婆装備セット3着。
「わけわからんわ」
「なんか、読み方わからんけど、すごい性能の装備セットです」
「読めんのかーい!」
「HQが2回出ました。NQ品オンリーでもヘイスト25%、トリプルアタック18%が乗ります。戦いもずいぶんと楽になるはずです」
 そう言い残すと、女はフラフラとおぼつかない足取りでベースキャンプを後にしました。
「めちゃゲームの話やん」
「システムメッセージか思たわ」

 翌日、乾闥婆装備を身に着けたヒーロー軍団の反撃が開始されました。乾闥婆装備は魔防・魔回避に優れ、鬼たちの特殊攻撃のほとんどを弾き返しました。通常攻撃では素早さに劣る鬼たちはもう、ヒーローたちの敵ではありませんでした。
「読み方わからんけどいてまえー!」

 かくして鬼軍団を打ち破ったヒーローは、鬼どもが溜め込んだ金銀財宝を取り返し、里へと帰りました。
 お爺さんお婆さんに迎えられ、宴を終えると、3人はそれぞれの道を歩み始めました。
 犬と猿は某お笑い番組に出場、若手のホープと謳われるようになりました。
 キジはキジ谷の自宅で、犬と猿の漫才を見て過ごすのが人生で一番の楽しみとなりました。

Special

里に合成ショップが開放されました。

そっとしておく
「そっとしておこう」
 ヒーローが言うと、犬と猿は怪訝に顔を見合わせました。
「どっかのおっちゃんが仕掛けたヤツや。
 勝手に触るもんやない」
 いつの間にかヒーローにも関西弁が感染っていました。

 ヒーローはふと背後に人の気配を感じました。
ヒーロー……
 わしはおまえを、そんな子に育てた覚えはない……」
 振り向くとお爺さんの姿がありました。
ヒーロー、その方たちはだあれ?
 悪いお友達じゃないの?」
 お婆さんの姿も。

「ほな、じぶんら先行ってるわ」
「浜の方で待ち合わせよか」
 犬と猿は雰囲気を察してどこかに消えました。

 気にもとめずにお爺さんは続けます。
「おまえのことが心配で、ずっと後をつけてきた。
 おまえってヤツは……
 いたいけな猫は放り出す……可愛そうなカニは無視する……」
 言葉に詰まるお爺さんのあとを、お婆さんが引き取ります。
「私たちはね、あなたが正義を行うって言うから、家を出るのを認めたのよ。
 そんなに悪いことばっかりするんだったら帰っていらっしゃい」
 ヒーローは戸惑いながらも口を開きます。
「家に帰るつもりはないよ。
 鬼を退治しに行くって決めたんだ」
 言い終えると、祖母の顔をまっすぐに見つめました。

「いいえ、ダメです。
 今日はコンサルの先生にも来てもらいました」
「コンサルの先生?」
 ヒーローが不審に思っていると、お爺さんがスーツを来た鬼を連れて来ました。
「不良撲滅協会のコンサルの先生だ」
「鬼じゃないかっ!」
 そこにいたのは明らかに鬼でした。
「鬼だなんて、ヒーローったら!
 先生に謝りなさい!」

 ――こうやって鬼が人間の社会の中に溶け込んで、悪に導こうとしているんだ!

 ヒーローはそう思いましたが、説明する言葉がみつからない。
「私ならかまいませんよ、お婆様」
 鬼は臆面もなく語りだします。
ヒーローくんなら大丈夫。
 私が鬼ヶ島矯正施設で、しっかりと鍛え直して差し上げましょう!」
「ああ、それがいい、ヒーロー!」
「料金はもう払ってあるのよ、迷う必要はないわ」
 戸惑いにも似た笑顔で、お爺さんお婆さんは語りかけます。
「さあ!
 鬼ヶ島矯正施設で、鬼のパンツをひたすら織り続ければ、あなたもきっと素晴らしい好青年に生まれ変われます!」
 慇懃な笑みを浮かべた鬼の顔がヒーローに迫ります。

「ふざけるなーっ!」

 気がつくとヒーローは鬼の首を斬り落としていました。
 わなわなと震えるお爺さんとお婆さん。
「どうして……」

「違う……」
 ヒーローは胸の底から静かに絞り出します。
「コイツはコンサルの先生なんかじゃない……
 人間を食い物にする鬼なんだ!」
 そう言うとヒーローは、どこへともなく走り去ってしまいました。

 残されたお爺さんとお婆さんは、その場で静かに泣き崩れました。

Special

桃太郎 in the multiverse ダークヒーロー編が開放されました。

見なかったことにする
 ヒーローは疲れ果てていました。
「カニですか。
 豪勢ですね」
 カニのことは視界に入れないようにして、少し作り笑いもしたかもしれません。
 ヒーローは何事もなかったようにその場を通り過ぎました。

「おいおいおい、ヒーローさんよう。
 あの悪党ほっといてそれでええのかー?」
 犬が訊いてきます。

 ――おまえが言えた義理か?
 喉まで出そうになります。
 ヒーローはあからさまに怪訝な表情をしてみせるが、犬は批判をやめない。
「正義のヒーロー様になる言うからついて来たんやでー?」
 歩きながらもずっとヒーローの右へ、左へと回り責め立てて来ます。
 もう限界です。
「じゃあ聞くが!」
 ヒーローは声を荒げます。
「おまえが刑事だったら強盗犯を追いかけてる途中で信号無視してるヤツがいたら、いちいち違反切符切るのか!? 魔王を倒しに行く途中の酒場でマスターが『灰皿かっぱらわれたー』って言ってたら、いちいちその犯人探しをするのか!?」
 犬は黙るしかありませんでした。
 理屈に納得したと言うよりは、話しても無駄だと気がついたのでしょう。
 ヒーローにしてみれば犬が黙ればそれで良かったのです。

 犬は日に日にヒーローに不信感を募らせていきました。
 そんなある朝、ヒーローが道具袋を開くと、ひとつだけ残っていたはずのきび団子が失くなっていました。
 隣では犬の野郎が幸せそうに寝ています。
 ――ミーが寝ている間に、この犬がきび団子を食べたんだ。
 そう確信するとともに、怒りにも悲しみにも似た感情がこみ上げてきます。

どうやら犬の野郎が勝手にきびだんごを食っていたようだ。
食ったに違いない。
犬の分際で!
説教する
 ヒーローは犬の毛布を引っ剥がしました。
「おいこら、犬ー」
 犬はまどろんでいます。
 眠たそうな目をこすって焦点をあわせます。
「てめえ、食ったよなー。
 ミーのきび団子、最後の一個。
 勝手に袋開けて食ったよなー。
 ああ?」
 長い孤独な旅は、ヒーローの性格をすっかり荒ませていました。
「いや、食ってないっすよ。
 それずっとヒーローさんが持ってたじゃないっすか」
「なにすっとぼけとーねん。
 昨日まであったゆーとーねん」
 ヒーローは足で砂をかけながら犬を追い込みます。
「ああ?
 なんとか言わんかボケがぁ」
「プッ……顔に……」
「なんや、顔にかかったか。
 それがどないした。
 いてこましたろかほんまー」
「あの……プッ……」
 犬はしどろもどろになりながら後退する。
「覚えたての関西弁で……プッ……凄むの……やめてもらえませんか?」

 その時。
「その方が食べたのではありません!」
 背後から声が聞こえました。
 ヒーローが振り向くと、そこには犬にいじめられていた猫の姿がありました。
「猫……おまえ……」
 猫は不審がるヒーローと犬の間に割って入ります。
「鬼が私たちの仲を引き裂こうとしています。
 そのきび団子も鬼が食べたのです!
 鬼はそうやって、私たちを戦わせようとしているんです!」
「鬼が……?」
 ヒーローは改めて道具袋を確かめました。
 すると道具袋には鬼の爪によると思われる大きな穴が空いていました。
「これはっ!?」
 ヒーローはすぐに己の非を認め、犬に侘びました。

 犬はおずおずと猫の顔を覗き込みました。
「猫、すまない。
 おまえをいじめていた俺を救ってくれるなんて……」
 猫の顔には一瞬、軽蔑の表情が見えました、が、
「私とあなたの関係も、鬼が壊しただけ。
 あなたを恨んでなんかいない」
 そう取り繕うと、猫は海岸の方に向かって歩き出しました。
 そしてその後ろには無数の猫たちが続きます。

「いったいどこへ!?」
 犬が訊ねました。
「鬼ヶ島へ、鬼退治に」
「鬼退治……?」
「私たちは、世界の真実を知ってしまった。
 悪を背後から操る鬼たちを、私たちは許さない」
 数千、数万の猫たちが肉球で大地を踏みしめながら歩いていきます。

「待ってくれ!
 俺にも何か手伝わせてくれ!」
 犬がそう声をかけると、猫は顎で隊列に加わるよう促しました。
 ヒーローはしばし躊躇したが、すぐに決意は固まりました。
ミーも連れて行ってくれ!」

 かくしてヒーローは鬼ヶ島奇襲部隊の一兵卒に加わりました。
 蜂起した猫の軍団の前に鬼たちは敗走を余儀なくされ、開戦からわずか5時間、鬼ヶ島は猫たちに占拠され、勝鬨が上がりました。

 戦いのあと、ヒーローは犬とともに里へ戻りました。
 鬼から取り戻した財宝は「もともとは人間のものだから」と、猫たちの手からヒーローへと託されていました。
 ヒーローが鬼ヶ島へ向かう道中、あるいはその戦いの中で起きたことのすべてを語ることはありませんでしたが、その物語はお爺さん、お婆さんの口からおぼろげに語られ、やがてそれに尾ひれがついて語り継がれることになりました。

 ヒーローと犬は、そのまま里で静かに暮らしました・……とさ。

Special

花咲かさん編がプレイ可能になりました。

クビにする
 ヒーローは犬の毛布を引っ剥がしました。
 犬はまどろみながらヒーローに訊ねます。
「なんや、まだ早いやないかー。
 どうしたんやヒーローはん。
 毛布返してーな。寒いやないかー」
 ヒーローは一瞥もくれずに、静かに吐き出しました。
「契約はもう終わりだ。
 あとは好きにしてくれ」
 犬は刹那戸惑いの顔を見せましたが、ため息をひとつ吐くとすぐに荷物をまとめました。

 ヒーローはひとりになりました。
 思えば、きび団子で仲間を雇おうなどという考えが間違っていました。
 仲間というのは、意志を同じくしたものが自然と集まって生まれるものです。
 ヒーローはしばし近くの宿で心の傷を癒やし、仲間を探しましたが、ともに鬼が島を目指そうという奇特な者とは出会えませんでした。
 
 数日後、ようやく単身鬼ヶ島に渡ったヒーローは戦慄しました。
 鬼の軍勢は少なく見積もっても数万。こちらよりもはるかに大きな体躯に頑丈な鎧、人では扱えぬほどの長い武器を持ち、バリケードや弩や戦車のようなものまであります。
 ――準備が足りていなかった。
 いったん引き返そうかとした時、背後から聞き覚えのある声が聞こえました。
ヒーローはん……」
 そこにいたのは犬でした。
 傍らには猿もいます。それにキジでしょうか、他にも見慣れない者たちがたくさん集まっています。
 ――いったいどうしたというのか。
 不審に思っていると、背後から人影が現れました。
「どうした犬、鬼の子どもでもみつけたのか?」
「ああ、ライバルはん。
 ちょっと昔の知り合いと遭遇しまして」
 そこに現れたのはライバルでした。
「知り合い?
 なぜ人間がこんなところに?」

 犬は今までに見聞きしたこと、ヒーローが鬼退治のために鬼ヶ島へ渡ろうとしていたことなどをライバルに語りました。
 ヒーローもその話を聞きながら、どうやら犬も猿もライバルに触発され、正義に目覚めたんだと悟りました。

「事情はわかった。
 だがここはそなたのような者が来るところではない」
 ライバルは退去を促しますが、ヒーローは引き下がるわけにはいきません。
「だけど――」
 身を乗り出した次の瞬間、遠くで合戦の開始を知らせる法螺貝の音が鳴り響きました。
「キジの合図だ。
 もうすぐキジ軍団による爆撃が開始される!」
 猿がそう知らせると、ライバルは鉢巻を締め直します。
「猫軍団は全員無事に上陸したか!?」
「ハッ! カニ軍団の背に乗って無事移送を完了いたしました!」
「わかった。
 カニ軍団はそのまま海岸線沿いに展開させ、鬼どもの逃亡を阻止するんだ!
 猫の指揮官と話がしたい、案内してくれ!」
「ハッ!」
 ライバルと犬が姿を消すと、キジによる豆爆撃が開始されます。
 猿とカニのリーダーと思しきふたりは遠くに上がる火の手を認めると、拳を合わせ、猿は山へ、カニは海岸へと隊を率いました。

 鬼軍団と上陸部隊との激しい戦いが幕を開けました。
 そんな中でヒーローは、戦いの成り行きを見守ることしかできませんでした。

 海岸線はカニに包囲されていましたが鬼の一部は難を逃れ、小舟で大海へと漕ぎ出しました。
 ヒーローはせめてこれを討ち取り名を上げようと、敗残の鬼を追って、小舟が待つ小さな入り江へと向かいました。
 最後の舟が出ようとしています。
 ヒーローが近づくと、鬼の1匹が手を差し伸べました。
「違う……
 ミーはおまえたちの味方じゃない……
 ミーはおまえたちをこの手で……」
 その声は戦闘の轟音にかき消されました。
 ヒーローはゆっくりと小舟に近づき、差し出された手を握りました。

 かくして、鬼の敗残兵とヒーローとを乗せた船は荒波の逆巻く海へと漕ぎ出しました。

 その後のヒーローの行方を知るものは、どこにもいません。
 後に鬼たちの間に、鬼としては妙に小柄な若き指導者が現れることになりますが、その正体が何者なのかは、誰も知る由がありませんでした。

もう何もかも諦めて実家に帰る
 ヒーローは犬を起こさないように荷物をまとめました。
ミーには無理だったんだ」
 自分の胸に言い聞かせながら、その場を後にしました。

 里へ帰る道中、多くの人とすれ違いました。
 その中には鬼に襲われる里人の姿もありましたが、ヒーローの気持ちは晴れやかでした。
 足は軽やかに、自然とスキップを始めます。
 町は混乱の中、蜂起して鬼ヶ島へ向かうひとの群れ、猿の群れ。
 すれ違う猫の大群は肉球で大地を踏みしめ、歩き続けます。
 街道沿いの宿からは火の手が上がる。
 鬼と、鬼にそそのかされた人間たちとが宿場町を破壊します。
 燃え盛る街、飛び交う怒号と、助けを求める泣き声。
 その中をヒーローはミュージックビデオのように歌を歌い、踊りながら里を目指しました。

 懐かしの家に戻ると、お爺さんは柴刈の背負子を下ろし、お婆さんは洗濯物を物干しに掛けているところでした。
 何もかも変わらぬ我が家。
「帰って来たのね、ヒーロー
「鬼はどうなった?
 討ち取ったか?」
「ううん。
 もうそんなことはどうでもいいんだ。
 ミーが目指した本当の平和は、ここにあるんだ」
「そうか。
 かまわんとも、ヒーロー
 おまえが命を賭けなくても、誰かが必ずやってくれる。
 それでいい。
 それでいいんだ」

 数日後、ヒーローとお爺さんお婆さんは、鬼ヶ島陥落のニュースを耳にしました。
 里はその話で持ちきりとなり、数万の軍勢がぶつかりあった史上最大規模の戦いだったことを語り合いました。
 ヒーローはその話を聞いて、自分は単身そこに乗り込もうとしたことを誇りに思いました。
 ヒーローはSNSにこう書きました。
「この戦いはミーが始めた戦いです。
 誰も知らない英雄、そう、ヒーローの物語を聞いてください」

いじめられている猫を仲間にする
「猫をいじめてはいけないよ」
 ヒーローは犬にきび団子を渡し、猫を助けてあげました。

「ありがとうございます、あなたは私の命の恩人です!」
「恩人だなんてとんでもない。
 ちなみにミーの名前はヒーローです。
 日本一のヒーロー、そう覚えておいてください」
ヒーローさん!
 あなたのこと、師匠って呼んでもかまいませんか!?」
「師匠!?」
 唐突に訊かれて驚きはしましたが、師匠と呼ばれるのはヒーローの夢だでした。ヒーローは二つ返事で了承し、猫をお供として連れて行くことにしました。

 だけど猫は貧弱で頼りなさそうです。
 ――ネコ科の動物が強いと言っても、品種改良を重ねられて頭にミカンを乗せられても動じなくなったような動物が鬼と戦うのは無理がある。一刻も早く次の仲間を探さねばならない。

 なんてことを考えていたら、唐突に猫の寂しそうな声が耳に入りました。
ヒーローさんは私の話、興味ないですか?」
 猫はさっきから隣で何かを話していたらしい。
「いや、そんなことはないよ、ええっと、なんだっけ?
 もう一度話してみて」
 拗ねる猫をなだめながら聞き出してみると、猫には猫里と呼ばれる故郷があるらしいことがわかりました。そしてお礼がしたいのでぜひそこを訪ねて欲しい、と。
「そうは言っても、ミーにはやることが……」
「やることって?」
 ヒーローは猫に、鬼ヶ島に攻め込むために仲間を探さなければいけないこと、その仲間とはおそらく、猿山かキジ谷で出会えるだろうということを語りました。
「猫の里で探すのはダメですか?」
 ――ダメではないが、猫よりも猿のほうが……キジは戦闘力は低いけど、空も飛べるし偵察も出来る……たじろぎながら説明していると、猫がそれを遮る。
「そんなことより、猫里で酒池肉球の日を送るのが楽しいと思います」
 ――酒池肉球!!

猫から猫里への招待を受けました。
どうしますか?
猫の里で酒池肉球の日々!
 ヒーローは猫とともに猫里を目指しました。
 猫里の様子がおかしいと気づいたのは、峠を越えたあたりでした。
 街道を行き交う旅の猫の姿はなく、猫里からは煙が上がっているようにも見えます。
「竈の煙かもしれませんが……
 でも胸騒ぎがします。急ぎましょう!」

 猫里にたどり着くと、そこには瓦礫の山が築かれていました。
「どうしたの、これは!?」
 あたりを見渡して猫は声を震わせます。
 見慣れぬ者の侵入に警戒していたのでしょうか、その声を聞いてようやく猫たちが姿を現します。その猫たちはみな、身体のどこかしらに傷を負っていました。
「姉貴……すまない……」
 三毛の猫が頭を垂れる。
「その傷、鬼にやられたの?」
「ああ、姉貴が里を出てから、ここの守備はガタガタだ……
 それよりもこちらの方は?」
 三毛猫はヒーローを顎で示して訊ねます。
「私の命の恩人です。
 この方に、酒池肉球のおもてなしを」
 ヒーローには聞こえないよう、小声で話すふたりでしたが、その声はヒーローの耳にも届いていました。
「いくら姉貴の恩人でも、このありさまだ。
 客人に振る舞えるような酒も料理もない」
「だったらせめて肉球を」
 三毛猫はヒーローの顔を一瞥して、猫たちに指示を与えます。
「おもてなしだ、野郎ども」
 猫たちは立ち上がり、ゆっくりと里の一角を目指しました。

 ヒーローは個室に案内され、肉球ぷにぷにの接待を受けました。
 赤い丹塗の柱に、室内に作られた小さな庭園、なまめかしい肢体の猫の像、揺らめく行灯の灯と水タバコから漏れるマタタビの匂い。そんな中で、傷だらけでギラついた眼をした雄猫の肉球をぷにぷにするのは、気持ちが安らぐものではありませんでした。

 しばらくすると、弟子猫が部屋に入ってきました。
「肉球神に会ってください。
 肉球神なら、この危機を打開する方法を教えてくれるはずです」
 ヒーローは目を丸くします。
「肉球神?
 どうしてミーが?」
「私はこの里の巫女猫だったのです。
 神託を受けて旅に出て、そこであなたと出会いました。
 でもここからどうしたら良いかわからないのです」
 
 ヒーローは『肉球神』という言葉に惹かれ、とにかく会ってみることにしました。
 泉のそばで巫女猫、すなわちヒーローの弟子猫が祈りを捧げると、身の丈3メートルはあろうかと思われる巨大な猫が現れ、手を差し伸べましたた。
 いったいこれをどうしろと言うのか……ヒーローが戸惑っていると
「ぷにぷにせよと言っておられます」
 と、巫女猫の助言。
 肉球神の肉球は、巨大で、ぷにぷにで、ひと押しするだけで笑みが溢れました。
「むほほ」
 両手でむんずと肉球を掴むヒーロー
「むふふwwww 柔らかいwwwww」

 鼻の下を伸ばすヒーローに肉球神は訊ねました。
「そなたは、鬼ヶ島を目指しているのであろう?」
 そしてヒーローの脳内にビジョンを送り込んできます。
 そのビジョンが示していたのは、鬼たちは肉球をぷにぷにできずに死んでいった人間の成れの果てだということでした。肉球への思いを断ち切れずに、この世界に舞い戻った悪しき魂。それが鬼なのだ、と。

 巫女猫は肉球神の言葉を引き取って続けます。
「猫が人間に懐いてさえいなければ、こんな悲劇は起こらなかったのです」
 そんな話を聞きながらも、ヒーローは無意識に肉球をぷにぷにしていました。

 肉球神はその声に力を込めて告げました。
「鬼はその頭領を倒せば一族は衰退すると言います。
 鬼たちを退治する手段はふたつ。
 肉球をもちて民衆を蜂起させ、鬼ヶ島に攻め入るか――
 これなる巫女猫を囮として鬼の頭領をおびき出し、ここで仕留めるか!」
 よくわからない選択肢ではありましたが――
「覚悟はできています、ヒーロー様!」
 と、巫女猫も真剣な目でこちらを見ています。
「それともうひとつ……。もしあなたが肉球への執着を捨てきれなければ、その時はあなたが鬼となってしまいます!
 さあ、ヒーロー様!
 ご選択を!」

いよいよ鬼との決戦だ!
肉球で民衆を蜂起させ、鬼ヶ島を攻める
「よくぞ決意しました」
 満足げな笑みを浮かべる肉球神にヒーローは訊ねます。
「でもどうすれば……?」
「猫たちを導いてください。
 猫とハイタッチした市民は、鬼を倒すために立ち上がるでしょう」
 戸惑っているヒーローの足に巫女猫がしっぽを立ててすり寄ります。そのそばには三毛猫をはじめとした里の猫たちの姿もあります。
「私たちもせいいっぱい頑張ります」
「ああ、腕が鳴るぜ」
 猫たちの気合に背中を押されるように、「うん」とうなずくと、ヒーローは宿場町へと向かいました。

 宿場町は鬼たちの狼藉で荒れ果てて、すっかり活気を失っていました。
 行商人も大道芸人も木陰にしゃがんで鼻毛を抜いて飛ばしたりしています。
 宿場の者たちは距離を取ってヒーローを見守り、中にはあまりの猫の数に怯えている人もいます。
 ――なんとかしないと。
 ヒーローは恥も外聞も捨てて声を上げます。
「さあさあ、御用とお急ぎでない方は聞いておくれ!
 日本一の桃太郎の、にゃんこちゃんハイタッチの時間だよ!」
 ヒーローが『日本一のヒーロー』の上りを高らかに掲げると、里の子どもが駆け寄ってきて、猫とハイタッチを交わしました。
「お母さんも!」
 子どもが振り返り母を呼ぶと、追いかけて来たその母も苦笑いしながらハイタッチを交わし、やがてまわりの大人たちにもその環は広がっていきました。

 気がつくとヒーローは、猫たちと民衆を率いて街道を行進していました。
 そこには宿場町で鬱屈としていた行商人の姿もあり、大道芸人の姿もあり、一行は激しく踊り狂いながら鬼が島を目指しました。
「この踊りは俺たちの魂の踊り。
 OUR 踊り……
 そう! 阿波踊りと名付けよう!」
 阿波踊りの発祥の瞬間でした。
 その中には18時間連続で踊り狂っていた者もいたそうです。

 かくして、民衆と猫の群れは海を渡り、鬼ヶ島へ到達しました。
 肉球は鬼の心ばかりか、人心までも惑わせます。
 すっかりハイになってしまった人間たちに鬼に対する恐怖心はありませんでした。
 斬られても殴られても立ち上がり、向かえ討つ鬼たちはやがて恐怖におののき、武器をかなぐり捨て、崖に追い詰められては次々と荒波の中に身を投じました。

 ヒーローは勝利しました。
 その時すでに、鬼の頭領は城の最上階で何者かに殺害されていました。
 数にまかせた烏合の衆にそんな力があるとはにわかには信じられませんでしたが、実際にそこで目にしたものが真実に違いありません。
 民衆は宝物庫の金銀財宝を分かち合い、猫たちは鬼たちが作った魚の干物を見つけて喜びあいました。

 城の裏手には広大なマタタビ畑がありました。
 そこに、巫女猫はひとりで佇んでいます。
「鬼たちは、このマタタビで私たちと仲良くしようとしていました」
 ヒーローは広大な畑を駆け抜ける風を受けて、遠くを見渡しました。
「私たちはもう二度と、こんなものと引き換えに肉球をぷにぷにさせたりはしない」
 巫女猫が従者に目配せると、従者たちはマタタビの畑に火を放ちました。

 畑の向こう、遠くに人影が見えました。
 犬と猿とキジでしょうか、3匹の動物を引き連れて、ちょうど小舟で島を出ていくように見えました。
 ――宴はこれからだと言うのに。
 ヒーローは切なげな表情を浮かべ、見送りました。
ヒーローさん!」
 猫たちが駆けつけます。
「みんなが英雄の登場を待ってますよ!」
「どうかスピーチを!」
 振り返ると、若い猫たちの屈託のない顔が見えました。
「うん、わかった」
 ヒーローが仰いだ空は、今までで一番澄み渡った青い空でした。

巫女猫を囮にして鬼をおびき寄せ、一網打尽
「わかりました。
 あなたがそう言うのなら」
 巫女猫は少し無理して笑ったような気がした。

 ほどなくして、里の中央に巨大なキャットタワーが立てられました。
『肉球祭り!
 巫女猫、肉球触り放題!』
 そう書かれたポスターが作られ、街道沿いのすべての宿場町に掲示されました。
「やめてくれ姉貴!
 考え直してくれ!」
 言いすがる三毛猫に巫女猫は言い放ちます。
「良いのです。
 すべて私が決めたことですから」

 祭りの当日、巫女猫はキャットタワーにのぼり、その上で両手両脚を投げ出し、四肢の肉球すべてをあらわに広場へと向けました。
 ――もう何も隠すものなど無い。
 そう思うと巫女猫は清々しい気持ちにさえなりました。

「このあとはどうするんだ?」
 ヒーローが訊ねます。
「あとは俺たちに任せてくれ」
「晴海でコミケの誘導をしたことがある。
 その時のノウハウを使うんだ」
 ――いつの時代だよ……
 うっかりツッコミそうになりましたが、やめておきました。

 里の前には鬼の大群が集まっています。
 一番前にいるのは鬼の頭領です。
 近くに並んでいる他の鬼に徹夜で並んだことを自慢しています。
 猫たちは事前に打ち合わせた通り、鬼たちを誘導し始めます。
 鬼たちの列はぐるっと猫の里を取り巻きました。
 そして、先頭に並んでいた頭領を「徹夜組にはペナルティが与えられまーす」との一言で、列の最後尾へと誘導すると、禁断の鬼のループが完成しました。
 鬼たちは猫の誘導に従って、ぐるぐると里の回りを回ります。
 あとは鬼の体力が失われるのを待つだけです。

 ふだんはうるさい鬼たちも列を作らせるとなぜか素直です。
 肉球触り放題を夢見て静かに歩き続けます。
 いつしか鬼たちは歌を歌い始めました。

 鬼ーのパンツは いいパンツー
 つよーいぞー つよーいぞー

 トラーの毛っ皮ーで でっきてーいるー
 つよーいぞー つよーいぞー

 3日が経ち、疲労が溜まってくると、
「あの木に見覚えがあります!」
 と、真実に気がつく鬼も現れますが、疲れが溜まった鬼たちには何かのアニメのパロディにしか聞こえません。まわりの鬼たちも他のネタをかぶせてゲラゲラと笑い出します。

 5ねーんはーいても やっぶれーないー
 つよーいぞー つよーいぞー

 はっこう はっこう 鬼ーのパンツー
「案内人殿に対し、かしらー、右っ!」

 はっこう はっこう 鬼ーのパンツー
「天は我々を見放した……」

 歌いながらひとり、またひとりと鬼は倒れていきました

 はっこう はっこう 鬼ーのパンツー
「肉球までは……たった2キロ……」

 あなったも あなったも あなったも あなったも
 みーんなではこう 鬼ーのパンツー

 あれから何日経ったでしょう。
 誘導していた猫たちも油断して眠りに落ちています。
 7000回目の鬼のパンツを歌い終えた時、頭領ひとりを除いて、すべての鬼が倒れ伏し、もはやそこに隊列はありませんでした。
 ひとり残された鬼の頭領の脳裏に浮かんだのは
 ――肉球触り放題!
 の文字。
 頭領はキャットタワーに駆け寄りました。
 だけどそこで頭領が見たものは、飲まず食わずで四肢を広げたまま冷たくなっている巫女猫の姿でした。
「これがお前たちが招いた結果だ」
 背後から聞こえる声に鬼が振り返ると、そこにはヒーローの姿がありました。
「違う! 俺たちは――」
 とっさに言い逃れようとする頭領の言葉を最後まで聞くことなく、ヒーローはその首を刎ねてしまいました。
 崩れ落ちる鬼の頭領の身体。
 その音を耳にして、猫たちが姿を現します。

「姉貴……」
 猫たちは悲しみに暮れます。
 しかし、その時、奇跡が起こりました。
 天から肉球神が降りてきて、巫女猫の額に軽く触れると、巫女猫は息を吹き返したのでした。

 かくして鬼は滅ぼされました。
 巫女猫の願いで鬼の亡骸は丁寧に埋葬されました。

 その後、ヒーローは生まれ育った家に帰ることになりますが、猫里での異様な出来事を語ることはありませんでした。
 里を出て、鬼ヶ島へ向かう道中で、犬と、猿と、キジを仲間にして鬼ヶ島へ渡ったと、当たり障りのない話をして、お爺さんお婆さんを安心させてあげました。……とさ。

あくまでも酒池肉球の実行を求める!
 ――巫女猫の目から一瞬だけ光が消えたような気がした。
「そうですね。
 そういう約束でしたね」
 肉球神の泉を離れると、すぐにまた先程の艶やかな部屋に通されました。
 こんどは酒も用意されているし、戦いに疲れ果てた雄猫ではなく、どこかに隠れていた雌猫たちも集められ、ヒーローを囲んで舞い踊りました。
 ――さっきは警戒していただけか。
 ヒーローはようやく心を開いてくれた猫たちに埋もれ、その快楽に身を委ねました。
 ――ああ……猫の匂い……
 猫の毛艶……この手触り……この温もり……
 いつしかヒーローは深い眠りに落ちていきました。

 ヒーローが目を覚ますと、周りに猫の姿はありませんでした。
 それに部屋が妙に小さく感じます。
 立ち上がると天井に頭がつかえ、背を伸ばすことさえできません。
 ――どうしたのだろう。
 ヒーローが室内にこさえられた庭園の欄干に手を伸ばしてみると、その手は見覚えのある己の手ではなく、青黒く毛深い鬼の手に変わっていました。
 ――まさか。
 恐る恐る頭に手をやると、そこには2本の角があります。
 ――鬼だ。
 鬼になったんだ。

 ヒーローの胸の中の疑問は消え、絶望がその空白を満たしました。

 小さな部屋の外から法螺貝の音が聞こえます。
 何事かと、部屋の入口を叩き割るようにして外へ出ると、目の前にいたのは犬、猿、キジを連れたライバルの姿でした。

「鬼の頭領が転生したと聞いて駆けつけたが、このようなところに潜んでおったか!」
「ああ、俺たちの手で、なんとかここに閉じ込めて見張ってたところだ」
 三毛の猫が応えます。
「大儀であった。
 あとはこの、日本一のライバルにまかせるがいい!」

 ――違う。
 ミーは人間なんだ……
 人の世を救うために立ち上がった英雄、ヒーローなんだ……

 そう訴えんとするヒーローでしたが、もはやその喉からは鬼の唸り声しか出て来ません。
 ライバルの隣には犬の姿が見えます。

 ――いつの間にあいつ……
 気がついてくれよ、ミーなんだ!

 だけど体はもうコントロールが効きません。
 ヒーローは柱を引き抜いてライバルを薙ぎ払います。
 そこに援護の矢が降り注ぐ。
 ヒーローは視界の隅に見慣れた猫の姿を見つけました。

ヒーローさん!
 あなたのこと、師匠って呼んでもかまいませんか!?」

 そんな言葉が思い出されます。
 ライバルの剣がヒーローの腹部を十字に切り裂く。
 熱い血と内蔵とが噴き出し、立ち上る湿り気からは腐肉の臭いがします。

 どこからか太鼓の音が響いてきます。
 どちらかの援軍が駆けつけたに違いありません。
 ライバルは従者たちに指示を与えています。
 だけどヒーローの視界にその姿は見えません。
 崩れ落ちる鬼の頭領。
 湧き上がる群衆。
 最後の瞬間、巫女猫の姿が鬼の頭領の瞳に映りました。
 その表情は悲しみにも、軽蔑にも見えました。

 かくして鬼の頭領が倒れると、敗残の兵たちも猫の里を取り囲んだ猿の軍団に殲滅させられ、鬼たちはみごと全員討ち取られることとあいなりました。
 めでたしめでたし。

猿山を目指す
「そうですか。
 仕方ないです。
 私は弟子なので、ヒーローさんに従います」

 ヒーローと猫は猿山を目指しました。
 入り口にいた猿はヒーローの顔を見るなり、親しげに話しかけて来ました。
「サル吉! サル吉じゃねぇか!
 おめえ、ライバルって奴の手下になって鬼ヶ島に乗り込むんだとか言ってるって聞いたけど、ありゃあウソだったんだな!?」
 ――どうやら人違いをされているらしい。
 しかも、ライバル
 ミーと同じことをしている奴が別にいるのか?

 ヒーローはすぐに猿山のボスの前に案内されました。
「サル吉が帰ってきたってのは本当か!?」
 ボスは身を乗り出しましたが、その顔はすぐに落胆の色に変わりました。
「どうしたんですか、ボス!?
 サル吉が帰ってきたんですぜ!?」
「人違いだ、トーキチロー。
 サル吉はワシの15人目のフィアンセ。
 ワシが見紛うわけがなかろう」
「なんだ……
 サル吉じゃねえのか……」
「ああ、だがこうして、我が猿山を訪ねてくれたんだ。
 盛大にもてなそうじゃあないか」
 と、盛り上がりを見せるボスを制してヒーローは訊ねました。
 自分はともに鬼ヶ島を目指す仲間を探している、誰かともに戦ってくれる者はいないだろうか、と。
 間髪入れずにボスは、
「だったらそこにいるトーキチローでどうだ?」
 と訊き返しました。
「あっしですかい!?」
 本人は嫌がっているけど、ヒーローには断る理由はありません。
 二つ返事で了承すると、
「ああ、連れて行くがいい。
 だが、条件がある。
 ワシの15人目の配偶者になることだ」
 と、ボスは続けました。

 ボスはこう告げました。
 ボスが一声かけるだけで数万のサルが集まる。
 が、その力を頼りたくばヒーローはボスと結婚式を挙げなければならない。その後半年間の蜜月を山奥の隠れ家で過ごして、その後、猿の軍団を率いて鬼を倒す。
 もしこの申し出を断るなら、ボスの面目を潰した罪により一生牢屋に入ることになる。
「どうだ?
 悪い条件ではなかろう?」
 ヒーローの顔のそばに寄せてきたボスの口からは、生の豆の臭いが漏れてきました。

ボス猿に求婚されました。
どうしますか?
ボス猿の求婚を受け入れる
 ヒーローの返事に猫はショックを受けていました。
 いつの間にか猫はヒーローにほのかな恋心を寄せていたのかもしれません。

 翌日、ヒーローとボス猿の結婚式が盛大に行われ、その後ふたりは同じ籠に乗って、山奥の隠れ家へと向かいました。
 ふたりが山を降りてきたのは半年後。
 その時、の子を身ごもっていました。この事実は猿たちの結束を大いに高めました。鬼との戦いに臨むのは見ず知らずの旅人のためではなく、自分たちのボスとその家族、未来の指導者のためなのですから。
 猫は戸惑いながらもふたりを迎えました。
「おめでとう。
 赤ちゃん、できたんだってね。
 しばらくは身体を休めたほうが――」
 猫が話していると、ボス猿が割り込みます。
「野郎ども!
 約束を果たす時が来た!
 鬼ヶ島に乗り込むぜ!」
 猿たちの間から怒号にも似た歓声が上がります。

 ボス猿とヒーローは猿の軍団を率いて鬼ヶ島に乗り込みました。
 猛り狂った猿たちの前に鬼たちは翻弄され、時を待たずして全軍が沈黙、ボス猿の手で頭領の頭蓋が割られたあとは、敗残の兵たちはひとり残らず荒海に身を投じました。

 かくして鬼ヶ島の鬼たちは滅びました。
 ヒーローは猿山に帰り、ボス猿と、そして二人の愛の結晶とともに末永く幸せに暮らしました。
 しばらくして、ヒーローの帰りを待つお爺さん、お婆さんのもとへ、結婚して子をもうけ、幸せに暮らしている旨を示した短い手紙が届きました。

Special

ヒーロー・ジュニアの冒険』が開放されました

ボス猿の求婚を断る
「わしに恥をかかせるとはいい度胸だ。
 ひったてい!」
 ヒーローは猿たちに脇を固められ、牢に連れて行かれました。
 鉄の扉に大きな錠がかけられ、ボス猿は鉄格子越しに覗き込みます。
「気が変わったらいつでも申し出るが良い。
 待っておるぞ」

 投獄された夜。
 鉄格子の隙間から猫が入ってきました。
「ご主人さまのそばにいさせてください」
 その日からずっと、猫はヒーローの傍から離れませんでした。

 投獄より10日ほど経った頃、ヒーローは病に倒れました。
 高熱が出て、息も荒くなり、手足の震えも止まりません。
 猫は天に祈りました。
「肉球神様。
 どうかお助けください。
 私の命をご主人さまに分け与えても構いません!
 ご主人さまに鬼の頭領を討たせてあげてください!」
 猫の祈りが肉球神様に届いたかどうかはわかりませんが、その声はヒーローの耳にもうっすらと聞こえていました。

 翌日、ヒーローが目を覚ますと、その身体は猫になっていました。
 牢獄には冷たくなった自分自身が倒れています。
 猫になったヒーローは牢屋を抜け出して、宿場町へと向かいました。

 ヒーローは宿場町で、犬、猫、キジを連れたライバルに出会いました。
 犬は以前、猫のことをいじめていた犬です。
 警戒していると犬の方から話しかけてきました。
「ああ、猫はん、オレや。犬や」
 その言葉遣いはずいぶんちお柔らでした。
「オレ、この人と一緒に鬼退治に行くねん。
 それでなんちゅーか、オレも正義に目覚めたというか……
 お前に謝らなかん思てたとこや」
 犬の言葉を遮って猫は訴えました。
ミーも鬼ヶ島に連れて行ってください!」
 鬼ヶ島の鬼退治、それが猫がヒーローに残したもの、どんな姿になろうともなしとげるべき使命なのですから。

 かくしてライバルと犬、猿、キジ、そして猫になったヒーローは鬼ヶ島を目指しました。
 鬼ヶ島には数万の鬼が駐留し、ライバルたちは苦戦を強いられました。
 鬼の頭領がいる部屋に真っ先にたどりついたのは猫、すなわちヒーローでした。
「おおー。めんこい猫やのう。
 肉球ぷにぷにさせてくれやー」
 そう言って手をのばす鬼の腕をヒーローは駆け上り、肩から背後に周り、首筋に噛み付きました。
 鬼は慌てて払おうとするが大げさな甲冑のせいで手が上がらない。
 鬼は背中を壁に当て、猫を押しつぶします。
 ヒーローの全身に衝撃が走ります。
 それでもヒーローは離れませんでした。
 騒ぎを聞きつけて階下から鬼たちが集まってきます。
 ヒーローはわずかに負わせた首筋の傷に爪を立てますが、ほとんどダメージは与えられませn。
 何度も何度も壁に叩きつけられ、集まった鬼たちはそれを見てニヤニヤしています。
 そのうち鬼の爪がヒーローの脇腹に食い込み、つまみ上げられました。

 ――ごめん、猫。
 せっかく譲ってもらった身体、壊されてしまいそうだ。

 ヒーローが観念すると同時に、手薄になった城の警備の隙きを突いてライバルたちが乗り込んできました。
 ヒーローの体は壁に叩きつけられ、意識が遠のいていきます。
 その朧気な視界の中には、ライバルたちの戦う姿がありました。

 数日を経た後、ヒーローは見知らぬ里で目を覚ましました。
「姉貴!
 ようやく気がついたか!」
 隣に寄り添った三毛猫が涙を流しながらヒーローの手を握っていました。
「ここは……?」
「混乱してるんだな。
 ここは猫の里、姉貴の生まれ故郷だ。
 ライバルの弟子だったっていう犬が連れてきてくれたんだ」
 ――そうか、生きてたんだ……
 すぐにヒーローの中に不安が蘇ります。
ライバルは?」
「残念ながら、鬼の頭領と戦って……
 壮絶な相打ちだったらしい」
「そうか……」
 ライバルと過ごした時間は永くはありませんでしたが、人間の中では唯一意志を同じくした仲間でした。それを思い返すと一気に悲しみが込み上げてきました。
「あとで肉球神様にも会うといい」
 泣きじゃくるヒーローをなだめるように、三毛猫は言いました。

 荘厳に光が射し込む森の中の泉。
 そこへ来ると、身の丈3メートルはあろう、巨大な猫が現れました。
「あなたが肉球神?」
「そう、そしてあなたは、私の巫女でした」
ミーが巫女……?」
「あなたの身に起きたことは、すべて私が仕組んだものです。
 あなたの意志を訊くことなくこのような処置を行ったことを許してください。
 お詫びにひとつだけ、あなたの願いを叶えましょう。
 ただし、願いはあなたと、猫の身に起きることに限られます。
 人間に戻るもよし、猫を生き返らせるもよし、あなたが選んでください。
 ただし、猫を生き返らせるとしたら、その魂はヒーロー、もとのあなたの肉体に宿ることになります」

ヒーローと猫に関することで何か一つだけ願いを叶えることができます。
どうしますか?
人間に戻りたい!
 肉球神は微笑み一つを残してかき消えていきました。
 ヒーローは意識を失い、気がつくとお爺さんとお婆さんの家の居間で目を覚ましました。
 ――ここは?
「ようやく起きたようだな、ヒーロー
「そうそう、あなた、庭先で倒れていたのよ。
 びっくりしちゃったわ」
 ――そうか。
 肉球神が届けてくれたんだな。

 ヒーローの身体にはまだ傷が残っていました。
 立ち上がろうとするとお爺さんが笑いながら支えてくれました。
 ――いつか、ライバルの足跡を調べよう。
 今はまだ無理だけど、犬のこと、猫里のこと、知りたいことは山ほどある。
 こんな怪我を負って帰ってきて、言い出すのはどうかと思うけど……
「ねえ、お爺さん、お婆さん……」
 ――ミー、やりたいことがあるんだ。
 お爺さんとお婆さんは優しい顔をヒーローに向けています。
 ――言わなきゃ、ふたりに。

猫を生き返らせて欲しい!
「……では、猫を生き返らせておきました。
 彼女はもとのあなたの姿となって、もとの家のそばに戻してあります」
 肉球神は微笑み一つを残してかき消えていきました。

 ヒーローは三毛猫たちに事情を話して、懐かしの我が家へと向かいました。
 その距離は数十里。ヒーローはひたすらあるき続けました。

 二週間後、ヒーローは自宅にたどり着き、猫と再開を果たしました。
 向こうもすぐにヒーローに気がつきました。
 ふたりはしっかりと抱き合って、二度と離れ離れにならないことを近いあいました。……とさ。

もう一度はじめからやり直したい!
 肉球神は微笑んで、宙空にアイテムを出現させました。
「そう言うと思っていました」
 戸惑うヒーローに肉球神は続けます。
「あなたはもともと、ここで生まれたのです。
 泉から流れ出るこの川を下って、あなたを育てたお爺さん、お婆さんのもとまで流れていきました」
 ――つまり、肉球神がすべてを仕組んでいたということ?
「さあ、このアイテムに触れるのです!
 あなたが生まれた日まで時を戻し、再びあなたをお爺さん、お婆さんのもとへ届けましょう!」
 アイテムアイテムに触れると、その身体は人間の赤ん坊の姿に変わり、アイテムの中に吸い込まれていきました。
 そしてアイテムは水に落ち、川を流れて行きました。

 その日、お爺さんは山へ柴刈に、お婆さんは川へ洗濯に出掛けていきました。
 お婆さんが川で洗濯をしていると、川上から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。
「よいしょーっ!」
 お婆さんはアイテムを拾い上げ、家に持ち帰りました。家に帰ってアイテムを包丁で割ってみると、中からそれはそれは元気で美しい赤ん坊が生まれました。
「この子は、ヒーローと名付けよう」
「まあ、ステキなお名前だこと」

力ずくでも逃げ出して鬼ヶ島へ向かう
「ほう……
 このワシを敵に回そうと言うのか?
 見上げた根性だ」
 ボス猿は身を乗り出してきました。
ミーは鬼を倒すと決めたんだ。
 猿などに負けるようなら、そもそも旅に出た意味がない」
「なんだとう!?」
 周囲の猿たちもいっせいに臨戦態勢を取ります。
 一触即発の危機かと思ったところ、ボス猿は大声で笑い始めます。
「行かせてやんな!」
 猿たちには動揺が走りました。
「こいつはサル吉にそっくりだ。
 あいつも、今のコイツと同じように啖呵を切ってワシの元を去って行った」
「だったらなおさら!」
 ボスは口を挟んだ猿を睨みつけ、黙ったのを確かめたうえで、ゆっくりと続けます。
「だが、そこまで言ったんだ、ヒーロー
 ワシらは一切協力せん。
 ワシが動かぬなら、キジも動かん。
 それでかまわんなら行くが良い!
 鬼ヶ島へ!」

 どう言われてもヒーローの気持ちは揺るぎませんでした。
 猿山を出る時、トーキチローから包みを渡されました。
「握り飯だ。サル吉に届けてくれ。
 あいつ……腹を空かせてそのへんのカニでも食ってなきゃいいが……。
 とにかく頼んだぞ!」

 鬼ヶ島が見える海岸に来ると、ヒーローはそこに人影を見つけました。
 犬、猿、キジを連れたライバルの姿です。
 ヒーローはそこにいる猿がサル吉だとすぐにわかりました。
 ヒーローライバルとはひとことふたことの言葉を交わし、その時点でお互いに気心の知れる相手だと確信しました。

 ライバルは語りました。
「カニや猿たちの蜂起を促したが、無理だった。
 鬼ヶ島へ渡ったとしても勝算は低い。
 だがこれ以上奴らをのさばらせるわけにはいかない」
 その言葉に、ヒーローは静かに頷くことしかできませんでした。
 ライバルはそれ以上何も語らず、ヒーローに盃を渡し、水筒から水を注ぎました。そして同じように自分も盃を取り、水で満たしました。
 それを飲み干し、盃を地面に叩きつけて割った時、
「ちょっと待ったー!」
 どこからともなく声が聞こえました。

「カニ軍団、6万3千騎、参戦するカニ!」
「いったいどうして?」
「カニ助の命を救ってくれたお礼カニ!?」
「救った? 何の話しだ?」
「それはあれや、オレが逃してやったカニのことや。
 ライバルはんに感化されて、ええことしとうなってな」

「姉貴ー!!」
 また違う方から声が聞こえます。
 見ると数万と思しき猫軍団の姿が見えます。
「どこへ行こうってんだ姉貴!
 俺たちも連れて行ってくれよ!」
 姉貴と呼ばれたのはヒーローが連れている猫でした。
 
 そこに法螺貝の音が響き渡ります。
「あの音は……
 ボス! 来てくれたのか!」
 そう言ったのはサル吉でした。
「猿の軍も動くのか!?」
 ライバルの顔がほころんでいます。
 上空にはキジの大部隊も飛来しています。

「よーし!
 行くぞ、おまえらっ!
 いよいよ決戦だ!」
 ライバルの号令で決戦の火蓋が切って落とされました。
 ヒーローたちは小舟に乗り、猫たちはカニの背に乗り、猿たちは泳いで海を渡りました。
 戦いはヒーローたちに勢いがありましたが、それでも幾度かのピンチは訪れ、だけどそれもヒーローライバルとの連携で乗り越えました。
 鬼の城に乗り込み、頭領を倒した時、ふたりの剣は同時に鬼の心臓を貫いていました。

 戦いを終えると、ヒーローは山奥の里へ、ライバルは港町の自分を拾って育ててくれた豪商のもとへと帰っていきました。
 
 ヒーローはお爺さん、お婆さんと再開し、今までに起きたことを話して、平和になった世の中で、ごく普通の生活を送りました。
 ヒーローは戦いの中で、ライバルに対して淡い恋心を抱いていましたが、自分の家はあまりにも貧乏で、向こうは港町随一の豪商の跡取り、別の道を歩むのは当然だと思って身を引いていました。

 そんなある日、犬がやってきました。
「冒険の時間ですぜ、ヒーローはん!」
 見るとその後ろにはライバルの姿も、猿、キジの姿も見えます。
「こんどの敵は少しばかり大物だ。
 手を貸して欲しい」
 ――突然言われても、ミーにはお爺さんお婆さんが……
 そう思って老夫婦の方を見やると、ふたりはヒーローにサムズアップを向けていました。

 かくして新しい冒険が幕を開けます。
 果たしてヒーローの運命やいかに!

Congratulations!!

裏トゥルーエンド達成!
桃太郎&かぐや姫による連携技が開放されました。

キジ谷を目指す
「そうですか。
 仕方ないです。
 私は弟子なので、桃太郎さんに従います」

 桃太郎と猫はキジ谷を目指しました。
 キジ谷へ着くと、そこで目にしたのは荒廃した里の景色でした。
 里の者に話を聞くと、どうやらキジ谷は飢饉で荒れ果てているようです。
「こんなところで仲間を探すのは無理だ」
 ヒーローの吐き出したつぶやきを、そばにいたキジは聞き逃しませんでした。
「村長のランさんを連れて行ってください!」

 話を聞いてみると、村長のランさんというのは数年前に起きた不作を解消するために金に任せて乱開発を行い、森も川もボロボロにしてしまった張本人、『乱開発のラン』というイケメンだという話です。
「村長だったら、鬼退治で名を上げられると聞いたら二つ返事で飛びつくはずです。村長支持派の連中もまるごと引き取ってください」
 それを聞いていた別のキジが口を挟みます。
「いいや、連れて行くならメイを連れて行ってくれ。
 正義のためだって言えば、あいつなら自分から飛び出して行く」

 聞いてみると、メイさんというのは反村長派の筆頭『革命派のメイ』。村長の乱開発を批判し、自然農法への回帰を説いているのだとか。
「ちなみにめちゃくちゃセクシーでカリスマがあって、彼女が動けば革命派はまるごと尻尾振ってついて行くね」
 ――いずれにしてもやっかいなものを押し付けられようとしているらしい。
 そしてまた、別のキジが口を挟みます。
「いいや、ここはせっかくだ。
 あの厄介者を連れて行ってもらおうじゃないか」
 ――まだいるのか。
 と言うか、厄介者って言っちゃったぞ。

 聞くとその厄介者というのは、寺生まれの霊感の強い少女、レイで、決してひとに心を開かず、夜な夜な異星との交信を行っている美少女だといいます。
「このところの飢饉はあの女が仕組んだに違いない」
「いいや、飢饉は村長の乱開発のせいだ!」
「じゃあお前はメイの言うように野生に戻りたいのか!?」
 里の者たちは激高し、今にも殴り合いそうな勢いです。

 乱開発のランには資金力があります。
 彼を連れていけば、キジ谷の文明は衰退し自然に戻ります。

 革命派のメイは強い正義感と指導力があります。
 彼女を連れていけば、キジ谷は更なる乱開発が進みます。

 霊感の強いレイは役に立つかどうかわかりません。
 だけど、彼女を選べばキジ谷の運命を変えることはありません。

キジ谷で3人の助っ人候補に出会った。
誰を連れて行きますか?
資金力のある乱開発のラン
 ――鬼退治に必要なのは軍備だ。
 ここは資金力のあるランが適任だ。

 ヒーローは村長宅を訪ねました。
 村長のランはヒーローをソファに座らせ、ヨモギの葉っぱを棒状に巻いたヨモギ煙草に火を付けました。
「オレがこの里を後にしたら、ここは野生の王国に逆戻りだ。
 だがそれも仕方ねぇ。
 そろそろ見切りをつけようと思っていたところよ」
 そう言うとランはヒーローを武器庫へと案内しました。
「この谷の開発を終えたら、猿山に乗り込むつもりだった。
 が、猿山を落とすにゃあ大げさだ。
 だが鬼が相手なら遠慮はいらねえ」
 そこにあったのは、鬼と戦うとしても大げさなくらいの武器の山でした。

 ――そうだ。
 と思って、ヒーローはきび団子を差し出しました。
「これ、仲間になってくれるひとに渡そうと思って……」
 ランはきび団子を受け取って、その香りを嗅ぎました。
「いい香りだ。
 上物のキビを使ってある。
 ご禁制の品だな?
 どこで手に入れた?」
 意外な反応にヒーローは少し戸惑います。
ミーのお爺さんお婆さんが……」
「爺婆のきび団子屋か。
 心当たりがある。
 あのふたり、まだこんな裏の商売を……」
「えっ?」
「なんでもない。忘れてくれ」

 と、そんな乱開発のラン率いるキジ軍団と話をつけて、ヒーローは鬼ヶ島を目指しました。
 キジ軍団は重火器で武装しとんでもないことになっていましたが、ヒーローはもう深く考えるのはやめました。

 鬼ヶ島へ渡ると小さな浜辺の先はすぐに雑木林に行く手を阻まれていましたが、キジ軍団の揚陸艇から吐き出された重機群が雑木林を軽々と薙ぎ払いました。
「行けーっ!!
 開発者根性を見せつけてやれぇーっ!!」
 上陸したのは重戦車8両に軽戦車17両、特殊車両7両と輸送車8両、連絡用の車両3両、歩兵は火炎放射器を持ち、敵が潜んでいそうな茂みをことごとく焼き払いながら進んで行きます。
「空軍の爆撃とともに戦闘開始だ」
 ――空軍まで……

 まもなくキジ空軍が到着。
 鬼の城をめがけて激しい爆撃が加えられました。
 逃げ出してきた鬼たちには地上部隊が対応し、鬼ヶ島の一角へ追い込み、その追い込んだ場所へ容赦なく焼夷弾を打ち込まれます。
 鬼の軍団は肉弾で立ち向かって来ますが、キジたちの機銃掃射に歯が立つわけもなく、戦闘開始から1時間も経たずに鬼の城に白旗が上がりました。
 被害者の中には若い人間の姿もあったと報告されましたが、混乱の中でその真偽を確かめることは叶いませんでした。

 戦いは圧倒的でした。
「この戦力差をズルいと思うかもしれんが、この武器も、弾薬も、我々のたゆまぬ努力で手に入れたものだ。
 確かに乱開発で里は荒廃している。
 しかしそれは一時的なもの。
 そこを乗り越えれば、我々には黄金の未来が待っている……
 ……はずだったのだ。
 なぜそれをわからん者がいるのだ……」
 ランは悔しさをにじませます。
「そうですね、ミーもランさんが正しいと思います」
 ヒーローは深く関わりたくないのでとりあえず相槌を打っておきました。
 
 ランたちは鬼ヶ島にニュー・キジ谷を築くつもりだと言いました。
 ヒーローとランは固く握手を交わして別れました。
 それとなく鬼が溜め込んでいた金銀財宝のことを訊ねてみましたが、
「もし正式に権利を主張するならば、弁護士を通じて申し入れてもらいたい」
 と、あしらわれてしまいました。
「それから、鬼は私たちが主導して倒したこと、忘れないでくれよ。
 会見もすべて我々が行う。
 仮に無断で情報を発信したら……キミも鬼たちと同じ運命をたどることになる」

 鬼には圧勝したものの、釈然としませんでした。
 お爺さんお婆さんの家に戻る道すがら、ランが匂わせていたお爺さんとお婆さんの過去の話も気になります。
 ――たぶんミーはまだ子どもなんだ。
 自分に言い聞かせてみましたが、悔しくて涙が出てきました。
 泣きながら歩いていると、猫が足に身体を寄せてきました。
「ねえ、猫。
 ミーはどんな大人になるんだろうね」
 抱きしめた猫からは、太陽の匂いがしました。

武闘派、革命派のメイ
 ――鬼と戦うには高い士気こそが大事だ。
 資金力だけではとても前線を維持できない。

 ヒーローは革命派のアジトを訪ねました。
 メイたちは地図を広げ、何かの作戦を練っているところでした。
「そいつがヒーローか?」
 ここまで案内してきたキジにメイは訊ねます。
「ハッ! ヒーロー、ならびにその飼い猫であります!」
「まだ正義を為そうとする若者がいるとは、世界もまだ捨てたもんじゃないな」
 メイは主人公にいくつか質問し、そして己の境遇についても語りました。
 彼女の家は古くから続く名家でしたが、何者かの手で両親は爆殺されたこと、まわりの里とのトラブルが絶えないこと、その他いろんなこを語り、ヒーローの要請にも快く応じると言ってくれました。
「私がここを離れたら、キジ谷は乱開発で荒野になる。
 だが谷の半数がそれで良いと言うのなら、それは運命だ。
 私は、この小さな谷の正義より、もっと大きな正義を守ろう。
 そう、この世界の!」
 ヒーローは仲間になってくれたお礼にと、きび団子を差し出しましたが、「受け取れば上下の関係になる」と、受け取ってもらえませんでした。

 ヒーローとメイは鬼ヶ島を目指しました。
 メイの革命戦線には数百のメンバーがいましたが、いざ鬼が島を目指すとなると、ついてきたのは6羽だけでした。
「みんな家族があるとか、明日アップの仕事があるとか、観たいテレビがあるとか言って、谷に残りました」
「そうか。だが責めても仕方がない。
 キジ助、手紙を書いたんだ。
 届けてきてはくれないか?」
「手紙?」
「そう。
 私たちには同士がいる。
 力を合わせれば、必ず正義を成し遂げることができる。
 猿山革命軍のリーダー、港町の野犬連絡同盟、それから猫里の次期リーダーと言われる……」
「ミケですね!」
 猫が割り込みます。
「そうか、知り合いだったか」
「弟なんです。
 弟には私からもよろしくと伝えてください!」

 ヒーローたちが鬼ヶ島へたどり着いたのはその3日後。
 鬼の軍勢数万に対して、ヒーローたちは8名。
「まずは姿を隠して潜入、破壊工作を行うが、すべて鬼の仕業を偽装し仲間割れを狙う。それと、鬼の中にも現在の頭領に反対する者がいる。彼らと連携し、指揮系統を乗っ取る」
 メイの作戦は完璧でしたが、弱点もありました。
「姿を見られたら、この作戦は継続できなくなる。
 もし敵の手中に落ちて、正体を暴かれそうになったら、これで……」
 メイはヒーローを含むその場にいる全員に自決用の手榴弾を渡しました。

 作戦開始から間もなく、メイの狙い通り鬼の間には疑心暗鬼が広がりました。
 鬼たちは仲間割れを起こし、互いに殺し合いましたが、ひとり、またひとりとメイの部下たちも自決の道を選ばざるをえなくなり消えていきました。
 やがて猿山革命軍、野犬連絡同盟から数十名の増援が来たましが多勢に無勢、遅れて猫里から20名が合流、この時点でもうこれ以上戦えないことが確定しました。
「ここはひとまず撤退しよう。
 これ以上の犠牲をだすわけにはいかない」
 メイがフックに命じると同時に、一匹の猫が駆け寄ってきました。
「明日までお待ち下さい!」
 主人公が連れている猫の弟、三毛猫のミケでした。
ライバルと呼ばれる人間が、各地で人や動物たちを蜂起させていると聞きました。私たちの調べでは、その軍勢が明日にでもここへ渡ってくるはずです!」
「そうか」と、メイは言いました。
「ならば、そのライバルが到着するまで、みな身体を休めておけ。決戦は明日からだ」

 その夜、メイはキャンプを抜け出しました。
 寝付けずにいたヒーローもその後を追い、目的を訪ねました。
「敵はもう私たちの動きに感づいている。
 いま上陸するのは、罠にかかりに来るようなものだ。
 だから陽動して、敵の目を私の方に引きつけておく」
「そんなの、いくらなんでも無茶だ」
 ヒーローは引き止めます。
「ここに来たときからもう、生きて帰れるとは思っていない」
 決意の揺るがないメイに、ヒーローは告げました。
「ならばミーも!」
 メイは呆れたような微笑みを浮かべました。
「ねえ、あれ、まだ持ってる?」
 と、メイは訊ねます。
 ミーが首をひねっていると、
「きび団子。
 半分ずつ食べましょう」
 と、メイは言いました。

 未明から島の2箇所で散発的な攻撃が続きました。
 やがて城の中と外と、同時に火の手が上がり、島の要所に配された鬼の部隊は侵入者への対応を迫られます。
 その中でライバルが上陸、一気に鬼の城を攻め落としました。

 ライバルが率いた軍が勝鬨を上げる中、猫はヒーローの姿を探しました。
 その場にいるひと誰彼構わず訊ね、その行方を追いました。
 キジの副隊長は、「これは固く口止めされているのですが……」と前置きしながらも、ヒーローとメイが夜中に連れ立ってキャンプを離れたことを教えてくれました。
 その話を聞いていたライバルは言いました。
「確かにここに上陸した時、陽動をしていた者がいた。
 かなりの数の鬼を引きつけていたから、無事だとしたら奇跡だ」
 副隊長はただ涙を堪えるばかりで何も言いませんでしたが、猫にはそれがヒーローのことだとわかりました。
 ライバルは改めて問いただします。
「その英雄の名を教えてくれ。
 あの陽動がなかったら、こちらの軍は壊滅していたかもしれない。
 その真の英雄の名前こそ語り継がなければならないんだ」
 猫はライバルヒーローとメイの名前を教えました。
 少数で乗り込んで、己の正義のために戦ってきたことを、しゃくりあげながら伝えました。

 ライバルと猫と仲間たちは、死んでいった者たちのために墓を作りました。
 そしてその名を、子々孫々語り継ぐことを誓いました。

霊感の強いレイ
「薦めておいて言うのはなんだけどさあ、あいつは無理だと思うよ」
 と、キジは言いました。
 レイは人間嫌いで、引き籠もって、誰にも会おうとしないと言うのです。

 レイが閉じ籠もった部屋の前。
 扉には小さな小窓があいていました。
「ここから食事を入れてあげるんです」
 そう教えてくれたのはレイの乳母も務めた血縁のひとで、レイの両親が数年前に心中したことも教えてくれました。
「最近はもう、誰が話しかけても返事さえしてくれなくて……」
 ヒーローと猫は顔を見合わせました。
 ためしにヒーローはきび団子を中に転がしてみましたが、勢いよく返されてしまいました。
 続いて猫が、
「わたし、呼んでみる」
 と言って、手を小窓から差し入れました。
 しばらくすると、
「あっ」
 猫が小声でリアクションします。
「肉球ぷにぷにされてる!
 に、肉球! 肉球!」

 かくして、閉じこもりの美少女レイは肉球で誘き出されました。
「この手はズルい」
 ズルいと言いながら、レイは猫の手を離しませんでした。

 しかし、どうやって鬼ヶ島の鬼と戦うのか。
「あのう、もしかして、超能力とか使えますか?」
 万が一の可能性を考えてヒーローは訊ねてみました。
「フッ」
 鼻で笑われました。
 ――そりゃそうだよな。
 と思っていたら、
「異星人に来てもらおうか?」
 と、レイは言い出しました。

 その夜、レイとヒーローと猫は近くの丘で輪になって手をつなぎ、
「ベントラ ベントラ スペース ピープル!」
 と唱え続けました。
「こんなので本当に異星人って来るの!?」
 猫の不安もよそに、次の瞬間、巨大な宇宙船が空から降りてきました。
「なんなのこれ……」

 次の瞬間、宇宙船から光が射し、ヒーローたちは宇宙船に吸い上げられました。
 そこで出会ったのは、身の丈3メートルはあろうかという直立した猫たちでした。
「肉球神さま……」
 思わず猫は漏らしました。
「知ってるの?」
 レイが聞き返します。
「そう、私たちはニャンコβ星系より来たニクキュリアン。
 あなたたち猫の世界には猫の神様、肉球神として姿を見せています」
「そうだったんだ」
 ニクキュリアンが語ったのはこうでした。
 地球にはそもそも猫や犬や熊など肉球を持つ動物しかいなかった。
 しかしそこに、肉球のぷにぷに感を求め、多くの星から肉球好きが転生し、人間の世界を作った。
 そして人間はあろうことか、猫や犬をペットにし、肉球のぷにぷにに溺れるようになったのだ、と。
「鬼はその、人間の悪しき魂が肉体をまとったものです」
 話が大きくなりすぎて、ヒーローは少し困りました。
 肉球ぷにぷにでまんまと引きずり出されたレイも立場がありませんでした。
「私たちは、人間の存在までは認めています。
 だけど鬼の存在は、宇宙の法則を乱すものです。
 そこであなたたちにお願いがあります。
 あなたたちにそれぞれ、猫、人間、の代表として、鬼と戦ってほしいのです」
!?」
 レイと猫はヒーローの顔を見あわせました。
「あ、なんかミー、遺伝子的にはらしいです」

 宇宙船が去った後の丘に、3人は残されていました。
「戦うって、でもどうやって……」
 レイが迷っていると、その隣で猫の身体が浮き上がっています。
「わわっ! 飛べる! なぜか飛べるようになってる!」
 レイとヒーローも真似してみたら空を飛べました。
「ひゃっはーっ!
 すっげー!」
 まだ夜明け前だと言うのにレイは大はしゃぎで飛び回ります。
「うるさいぞおまえらーっ!!」
 村長の家の窓が開いて怒鳴られますが、
「知るかーっ!
 黙ってろーっ!」
 レイが怒鳴り返すと、レイの身体から火球が放たれ村長宅は消失しました。
「すげーっ!
 弾撃てたーっ!」
 レイは大はしゃぎで里の家々を破壊して回ります。
「仕返しだーっ!
 ざまぁみろーっ!」
 今までどんな目に合わされてきたかは知りませんが、ヒーローも猫もあえて詳しいことは訊きませんでした。

 ヒーローたちはそのまま鬼ヶ島へ渡りました。
 鬼ヶ島ではすでに戦っている者がいて、少々苦戦を強いられていたようですがすぐに逆転。最後はレイがその人たちもろとも、跡形もなく吹き飛ばしました。

「いやあ、痛快だったなぁ!」
 屈託のないレイの笑顔にヒーローは癒やされました。
「それじゃあ、猫、、元気でな」
 右手を上げただけの簡単な挨拶のあと、レイはひとり、どこかに飛び去って行きました。
「あの子、ひとりにして大丈夫かなぁ……」
 猫は心配そうにしていましたが、ヒーローにしてみたら、人間がどうなろうとの自分にはあんまり関係ないんじゃないかという気がしてきました。

あとがき

 と、このように、たかが桃太郎の最終20に満たないストーリー分岐ですら、プロットを組み立てるのに1日、ライティングに3日かかります。
 4日だったらたいしたことないと思われるかもしれませんが、実際にはプロデューサー的な人と
「この猫の扱いはクレームが入る」
「せっかくだから吉四六さんも出しましょう」
「きび団子、商標的にアウトです」
 などのやり取りが入るので、想像を絶するくらい時間がかかります。

 それと最初にも書いた通り、桃太郎という誰もが正解を知っているお話だから脇道を広げられるので、オリジナルで行くとしたら更に苦労するでしょう。

 しかもIPものだったりすると、普通に考えればオリジナルの筋書きが最も楽しいのが当然なんですよ。作者がそれが最高だって考えて書いたものですから、ゲーム屋がそれを凌駕するものを書くのは困難です。

 だから個人的には、マルチのシナリオって相当な覚悟なしには踏み込めない世界だとは思いつつ、でもやってみたいですね、いつか。
 これこそマルチバースだ!
 って自分でも誇れるようなものを。

光り輝く竹を拾う

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